「汲みたて」の暑苦しさと、「佃祭」のさわやかなよろこびと|五街道雲助独演会

五街道雲助独演会

春風亭枝次 二人旅
五街道雲助 勘定板 / 汲みたて
〜仲入り
雲助 佃祭

20220810
横浜にぎわい座


にぎわい座での雲助師匠の独演会。

にぎわい座は年に一度の五街道雲助一門会はじめ、白酒師匠の独演会も多く、わりと足を運ぶことが多いほうなのだけど、雲助師匠の独演会はタイミングが合わず、しばらくご無沙汰してしまっていた。

珍しく二題ネタだしで、「佃祭」と「汲みたて」の文字がチラシに躍る。
思わず、大ネタの「佃祭」よりも「汲みたて」の文字に心浮き立ってしまう。夏になると、妙に「汲みたて」のバカ囃子が恋しくなるのである。すっかり師匠に飼いならされている。たぶんもう、戻ることはできない。

危険な暑さのなか、隅田川の向こう側からはるばるハマまでやってきたとのたまう師匠。いつの間にやら、師匠の独演会は二席が定番のような気がしていたのだが、この日は三席やると(!)
ええーっお疲れなのに、いいの?!

そんなファンの期待を知ってか知らずか、はじめたのは、「勘定板」。
もうその選曲(?)センスに爆笑してしまった。「汲みたて」の前にこれをぶつけてきますか。いくらなんでももうひどくって、でもピッタリで、大好きです!汲みたての前はもうこれしか考えられないね!()

「汲みたて」はたぶん雲助師匠でしか聴いたことがないのでオリジナルかは定かでないけれど。
「師匠にイロができたらしい」とオオカミ連が騒ぎ立てるところ、ひとりが自分を指して「器量は二の次…」と言うの、自己肯定感高くて好きなの。
バカ囃子で舟涼みを邪魔する場面でも、なんだかんだで「師匠なんて…っイイ女だ!」と嫌いになりきれていないのもかわいい。同じヤツかな?笑

なにより粋なおデートで半公が見せる色男ぶりから、瞬時にバカ囃子に切り替わるその落差。こういうのを観ていると、わたしはやっぱり二枚目雲さんより、三枚目雲さんが大好きなんだなあって思う。
で、この噺で好きなところは、とっても大好きな「電話の遊び」にもつながるんだなァと改めて思ったけど、それはおいおい順序立てて書きましょうか。

仲入り後もネタ出しの「佃祭」。

今年大きな水難事故があったばかりで、演者さんにとってはなんとなくかけにくくなっている噺なんじゃないかなって思ってた。
いやいや、ずいぶん甘く見ていたもんだと、聴いてみて思う。

なんてさわやかな後味なんだろう。
祭り好きの旦那に、やきもちやきのおかみさん。急な訃報に狼狽えながらも、家族に代わって段取りよく葬儀の準備を進めてあげる長屋の連中。助け合いの精神がまぶしくも、いざかしこまった場になると、みんなどうしていいかわからなくって、とんちんかん。
師匠の描く市井の人びとは、一人ひとりがちゃんと生きているんだなって改めて思う。

ああ、なんだかもう、あまり高座の細かいことを書く気にならない。

ただ。ほんとうに大変な事故や災害が起きて、何人もの方が亡くなって。自分の大事なひとだって、それに巻き込まれてもおかしくなかったかもしれない。
それでも、なんとか、難を逃れて生きていてくれた。帰ってきてくれた。

怪我人や死者が出てしまうような大きな事件が起きれば、犠牲になった方のまわりの人たちだけでなく、運良く助かった人にも、深い傷が残る。
それがその人の「運命」だと言うには、あまりにも残酷な選別で、どうしたっていたたまれない。「どうして」という思いは消えない。
傷ついた人たちを前にして、助かったことを手放しに喜ぶのが、なんだか悪いことのように思えてしまうこともある。

「情けは人のためならず」とあるように、「佃祭」は元々とても「良い話」なのだろうけど、善良な人が善い行いをしていたから助かったのだ、では、なんだか受け入れがたく思ってしまうときだって、ある。

この日の「佃祭」は、なんとなく、とても"普段"のこと──次郎兵衛さんの日常を彩る人たちの在りようがあざやかだったからなのか、ただ、生きて帰ってきてくれたことへの純粋なよろこびを、まっすぐ受けとったような気がする。

そして、大事なひとが、生きて戻ってきたことを喜ばしく思うその心に、なにも罪なんてないんだ。そんなふうに思わせてくれた。


我ながらちょっと大袈裟かなあ?なんて思ったりもするけど、こうやってまっすぐ素直に受けとれることって、そう多くないので、感じたことは率直に書いておきます。

返す返すも、さわやかで、とても気持ちのよい高座だった。

あらためて、雲助師匠は、大きいなって思う。


最初のまくらで「能を保護した足利幕府のように、ルネサンスを支えたメディチ家のように、寛大な心で…」とおしゃべりしていたけど、気持ちだけはもうとっくにそんな感じですよ、師匠。わたしに足りないのは、資金だけだ、面目ねえ。

師匠が元気で、ごきげんに高座に出てくれれば、それが一番。でも一席はやっぱり口演してくれたら嬉しいなって思っちゃうけど。

ああ、わたし、師匠が大好きだなァ



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