見出し画像

2024年5月の記録とエッセイ




京都に移住してから、奈良に住んでいた時よりも表現の世界に触れることが増えた。歌舞伎、舞台、美術、展示。奈良に住んでいた当時の僕だと触れられなかったもの、触れようとしなかったものが京都には沢山あった。今まではきっかけがなかっただけのかもしれない、それでも京都に住んでいるというだけで目に入る情報がめまぐるしく変わり、しかも良い方向へと進んでいるということは、環境を変えて良かったと全身で感じている。過去と比べてまだ変えられていないこと、その中で変わったこと、課題は少なからずあるけど、良い方向へと進んでいる事実をしっかり受け止めている。



1,舞台「鴨川ホルモーワンスモア」

大阪梅田にあるサンケイホールブリーゼで観た、舞台「鴨川ホルモーワンスモア」。京都・三条を舞台に1000年前から続く「ホルモー」という大学生サークルのお話。俳優陣の演技力の高さに何度も鳥肌が立った。全身を使って表現する悲しみや喜び、戦闘時のフォームまで役がしっかりと入っていた。間違いなくプロの演技で、圧倒的だった。滑舌や発声が良いのはもちろんのこと、立ち振る舞いも、表情ひとつひとつの細かな演技も、あの空間全てがホルモーの世界で、全てが京都三条だった。
僕の職場は京都の三条にある。通勤路は鴨川、自転車で毎日通っているとても身近な場所が舞台だった。たまに鴨川デルタのあたりで踊っている大学生を見かけるけれど、もしや…。ホルモーは現実世界で存在しているかもしれないし、未だに僕はホルモーの世界に取り残されているのかもしれない。


中川大輔さんと、清宮レイさんのアクスタ

2,クロード・モネ 連作の情景展

ゴールデンウィークのど真ん中、中之島美術館で開催されていたモネ展を観た。とても暑い日だった。沢山の人の往来を眺めながら、死後もなお大切に保管されている作品を見ていた。フランス北部にあるエトルタの情景、ジヴェルニーの積みわら、ウォータールー橋の連作表現、そして代表作である睡蓮。時を超え、さらに国を超え、生涯をかけて多くの作品を残した彼のことを愛している人たちが沢山居た。
いつか僕も彼のようになることが出来るだろうか。果てしなく遠い彼の背中を、追いかけてもいいんだろうか。
絵画を通してヒントを沢山教えてくれている。表現の世界で生きていくのであれば、後世に残るようなものを作りたい。


3,京都国際写真際/川内倫子さん

京都国際写真祭。京セラ美術館で行われていた川内倫子さんの写真展を観に行った。写真とはなんたるか、映像とはなんたるかを教えてくれた。川内さんの祖父が亡くなるまでのお写真、お葬式のお写真、それから巡り生まれてくる川内さんの娘。終わりがあれば始まりがある。最期があれば最初がある。それらは全て繋がっていた。生きていくということはいつかは死んでいくということ。避けられない事実を、真実を、改めて教えてくれたのと同時に、写真や映像にして残すという責任、覚悟の重さをとても感じた。生半可な気持ちで写真を生業としている訳じゃない「生命」と真摯に向き合った写真展だった。初めて展示を見歩きながら泣いた。止められなかった。
写真を生業にしようとする僕にとって、あまりにも衝撃的で決定的な展示だった。甘すぎる。写真に対して何もかもが甘すぎる。自分の立場や実力を知っていく度に、自分がいかに世界と向き合えていないかが分かる。心が燃えていく感覚がありながら、地に足を着けて少しづつ歩いていかなければいけないなと感じる。もっと向き合っていきたい。自分にも、世界にも。


4,第15回角川全国短歌大賞 結果

昨年の秋に応募していた、第15回角川全国短歌大賞の結果が返ってきた。
題詠部門「」と、自由題部門の2つ。大賞・入選は出来なかったけれど、題詠部門の短歌が予選選考を通過、最終選考まで残ることができた。本という文字を使って短歌を作ることが難しかった。身近にあってイメージしやすいiphoneの地図機能を「日地図」と変えて、わかりやすく短歌で表現することができたと思う。もっと自分の概念だったり思想だったりを投影したかったけれど、それは自分の作品でやればいいと思った。コンテストや全国応募に対しての戦い方はどれだけ読み手にイメージが出来るかだと思う。何千と応募されてくる中でインパクトのあるもの、言葉。短歌という古から残り続ける言葉の羅列に対して、横文字の「iphone」を入れることに抵抗があったけれど、現代の言葉で残すことが現代短歌なのだと納得して、この短歌が出来た。

自由題の短歌。夜、コンビニに向かう途中で見上げた空にオリオン座が見えた。誰もがオリオン座だと分かるのは、何百年前の人たちがあの羅列をオリオンに似せて決めたからだけど、その文化が今でも残っていることも、何百年、何千年、昔の世界から光を落とし続ける星たちが、今でも僕たちの元へ届いていることにとてもロマンを感じて。

自由題
よく冷えた夜のにおいに包まれてオリオンは君へひかりを落とす
題詠「本」
ピンセット掴んだような指先でiphoneの日本地図を這わせる

最終選考に残ったことは本当に嬉しい。いつか大賞をとりたいです。
短歌の世界でも生きていきたいのでこれからも作り続けます。次は2度目の笹井宏之賞への応募。



5,これからのこと

舞台、絵画、写真。彼らから何を学び、何を得られるのか。今までの自分だと得られなかった要素も、まだ得られていないもっとさらに深い世界もあると思う。初見の僕が見ても凄みを感じさせるような圧倒的な技術に表現力。自己表現において「自分の内面を外側へ表現することの難しさ」。ここに至るまでにどれほどの努力を、血の滲むような研鑽を繰り返してきたのだろうか。僕はまだまだその領域から遥か遠くにいる。表現者としての高みにいる人たち、そして高みへ上ろうとしている人たちを見ながら、僕もその領域に辿り着きたいと思った。それは、誰かから与えてもらえるような世界ではなく、自ら得ようとしないと得られない世界。失敗が当たり前の世界、生きていくことの難しい世界。僕はその世界で生きたい。彼らと同じ領域で生きたい。


5月、インプットにインプットを重ねた1ヶ月だった。インプットしかできていない。積み重なる課題もやらなければいけないこともまだ沢山残ってる。少しづつ、1つづつ、しっかりと地に足を着けて歩く。6月の自分に期待しているよ。



病気と共に生きていくということ」というエッセイを書きました。本当の自分、正真正銘本当の佐野夜です。
この先は有料になります。僕に対してお金を払ってもいいという人だけ読んでください。

2024年5月の1ヶ月記録を書きながら、「言葉」の重要性に対して改めて追求しようと思いました。僕が今でも抱えている病気のこと、ことばを伝えるという行為がどれだけ尊いことなのか、この記事を読んでいるあなたに知ってほしい。僕のことも、同じ苦しみを感じながら生きている人にも、精神的な苦悩をかかえている人たちにも読んでほしい。言葉がどれだけの力を持っているのかを。

ここから先は

3,876字

¥ 300

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?