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【短歌】明け方の港、朝霧

2023年9月「第6回笹井宏之賞」及び、2023年12月「第3回あたらしい歌集選考会」に応募させていただいた短歌100首をここに残しておくことにしました。
入賞することは出来ませんでしたが、2023年の夏から冬にかけての半年間、短歌の奥深さ、そしてことばというものの力を改めて知ることができました。
2023年7月から短歌を始めました。ことばと向き合うことは、自分と向き合うことと同義なのかもしれません。自分と向き合う度に露呈する未熟さや弱さ、他の歌人が生み出す圧倒的な短歌に打ちのめされてを繰り返しながら、必死で生み出した短歌100首です。
そして、まずはやり切ることを目標とし、応募まで辿り着けたことは今後の自分への自信に繋がりました。
未熟で弱い僕だからこそ、あの頃の僕だからこそ、生み出せた短歌があります。
さらっとでも良いので一度よんでみてほしいです。こんなことやってたんだな、と知ってもらえる機会になれば幸いです。
これいいな、好きだな、という短歌があればコメント欄やSNSのDMで教えてください。励みになります。



「明け方の港、朝霧」


明け方の港、朝霧

明け方の港、朝霧、ゆっくりとあなたを忘れてしまうのですね
欠けていく花瓶を大事に抱きかかえ清く狂わしく咲けアルケミラ
性欲の行方を知らない頃のまま出来れば君と出会いたかった
耽溺の全てを思い出し燃やす地獄でまた会う約束をして
飽和する夜の新宿初期衝動、スローモーションのようにたゆたう
燦々とひかりふるハウスダストまでうつくしく見える最期でしたね
ゆっくりと命を枯らしていくことの最果てで待っているオフィーリア
寂しくて辛くて泣いているだけのひとりの夜があったっていい
水道の蛇口をひねる まだ君が鳥ではなかったころのはやさで
若者でなくなっていく寂しさを詰め込んだバトン 君に渡すよ

老いてゆく美しさ

老いてゆく美しさまで愛そうと頷く静かな湖畔で花は
硝子戸のきらめきたちをかきあつめ布団の上で踊らせる夜
春を抱くような静けさの満月がいつか落ちてくる気がして怖い
傷つけたことを知覚するということ 自身の傷を顧みること
君宛ての手紙を燃やすゆるやかに出町柳の風はふるえて
よく冷えた夜の匂いにつつまれてオリオンは君へひかりを落とす
些細でも広いこころのまんなかに雪降り積もれば君のいる影
最前線を私が歩くそのさきの鋭さを帯びたままの白波
ブランコと揺れるあなたの横顔を見ながら運命論を説きたい
醒めていく夜のすべり台流れてた永遠と錯覚した花びら

窓辺のひかりのなかへ

五線譜の上を走り出す街灯のしるしを追っていけば夏の海
たまにはさ各駅乗って帰ろうよ知らない街で降りたりしてさ
死ぬことは眠ること青の黎明に浮かぶ窓辺のひかりのなかへ
もし先にわたしが死んだら魂はあなたの両目に憑きますからね
あいいえう。なに?あいいえう!あいいえう!ちゃんといわなきゃああんあいよ
「愛してる」その一言では足りなくて心臓ごと渡してしまいたい
放課後の葛藤をまだ大切に引き出しの中で眠らせている
もう何度切り落としたいと願ったか 私はきみにずっとなれない
君の目に映るわたしがかわいくてしょうがない人になっていたいな
夜にしか生きられないということを許せる世界であればいいのに

凍りゆく音

脳髄の裏に激しく裂いた花 まぶたが静かに凍りゆく音
すこやかに生きてきた手の中にあるいのちのかたちひかりのかけら
ふくらみが真芯をとらえた手のひらの栞を挟んだままの半夏生
朝。蝉の呼ぶ声がして気がつくと冬を思い出せなくなっていた
死んだ後万年筆に血を入れて僕の人生の採点をして
この身体からこぼれ出した吃音が絶唱の雨と混ざり溶け合う
現状を伝えられないのであれば存在していないのと同じだ
明け方の薄い光に当てられたまぶたの裏をずっと見ている
秋の葉のごとく群がり落ちるのは君か僕か決めてくれ、鏡よ

あるいは花あるいは祈り

藍色の凪を覗けば深淵の奥から飛び出すオレンジジュース
現代に取り残された概念を夜の向こうへ連れ出してほしい
あるいは花あるいは祈り つま先でひらく半透明のカーテン
完全と諦めた夜に脈を打つ 埃まみれで眠るカフカが
「浮気するとかありえない」と言っていた友人が妻子持ちと不倫を
愛情を求めすぎると偽物の愛に紛れてわからなくなる
曖昧な好きを心に泳がせる 溺れてしまうことを知りながら
この声は三十一文字の風となり頭上舞い踊る天使を乗せる
悪人を白のペンキで塗り替えて善人にしたてあげたまどろみ
高慢を覆いかぶさる偏見の輪郭たるもの似た者同士

孤独を別つ

常識や当たり前だという人の正しさを探すいちにちでした
まだこどもだった古傷が癒える頃 鳥の羽ひとつ水辺に浮かぶ
窓硝子閉じてゆらめく冷たさに空の如雨露が孤独を別つ
悲しみを抱いて眠ったヤマネコの寒さをわかるヒトになりたい
今だけは誰の気持ちも考えない 暖炉の前の氷柱のようで
別に期待していたつもりじゃない 心 くすぐり嬲る君は百日紅
目を閉じた先で消えゆく陽炎に夜の匂いを閉じ込めて、夏。
鉛筆の上についている消しゴムを黒色に染めたくはないのに
感傷的ハイドレードは反射する 瞳の底で沈む白夜の
遠い日の記憶 たおやかに燃えていく灰色の朝に浮かぶ歩道橋

美しい波

変わりゆく世界が嫌だ 変わらない記憶で蓋をしめていく春
色、匂い、記憶、脳髄の奥にある湿ったままのやわらかな肌
ぬかるんだ足元に気づくこともなく死んだ猫の目をずっと見ていた
美しい波に変わった手のひらの上で生まれた小さな天使
撫でるたび口の両端上がるのはあなたと犬ぐらいしか知らない
(内緒だよ。帰りに寄ったコンビニで買ったパピコを1人で食べた。)
正直であるか否かは悩み抜け信義に二種あり気高く生きよ
「禁煙をする」と言ったが二時間後左ポケットに潜むラキスト
本当にどこからくるかわからないコバエと格闘午前2時、Fight!!
ことばとは白血球のようなもの 人を生かしたりその逆もある

やさしさ

涙とは乾いた瞳に神様があげてくれるやさしさの水やり
優しさの気持ちを持っているときは周囲の刃 鋭さを知る
優しさの海に漂う君だけのホロスコープ 遠吠えが聞こえる
痛みを知り、また痛みを知り、そうやって生きてきた先で優しさを知る
泣いているこどもの頭を撫でるたび手当という言葉を好きになる
優しさと気づかなかったあの頃のわたしを両手で抱きしめる朝
朝が眠る。夜の暗さはこの傷を隠してくれる為の優しさで
なみだ、波。海岸沿いの藍色がにじんだ視界を許せずにいる
あかねいろ、ももいろ、ふたりは花泳ぐ誰も届かない場所へ飛び立て
忘れたよ。君といた季節もう二度と思い出せない場所まできたよ

遺稿のカフカ

蝕まれ内から崩れていきながらそれでも20本入りの箱を
燃えてゆく遺稿のカフカ君だけに送った写真の裏で死にゆく
婉曲なことばが泳ぐ水面を傷つけぬように遺稿のカフカ
城に着くことできずとも君はもう死にゆく遺稿のカフカ さよなら
下降する桜垣間見るなだらかな未来をたどれば時のあしあと
もういっそ全て壊してしまってさまた新しく作ろうよ海を
生きたまま死んでゆくのさ炭酸が抜けた生ぬるいラムネみたいに
先のない道を歩いていたのだと気づくのは確か花火でしたね
君は眠る。寝たふりだったとしてもまだこの手はずっと繋いでようね。
ぼくが成すことをこれから見ているよ誰も座れない特等席で

インファンティアの行末

楽園を壊してしまったあの夜の残ったものがお前の光だ
孤独にも愛されなかった 純白のシーツに残った海のかおりも
喪失を知るその瞬間から君は 大人になって生きていくんだ
RAW現像からjpegになるように君の背丈がのびてゆく春
まばたきを一つするたびに遠くなるわたしはやっぱり君が好きだよ
魂を看取る夕星 君の部屋脱ぎ捨てたままの赤い靴下
変わろうとしているしている人のさきにある地獄は君の目に映せるか
この場所がこの言葉たちがいつの日か灯火となって船を押し出す
薄れゆくインファンティアの行く末を見届けてゆく潮が満ちるまで
他人とは理解できないということをわかったうえで理解する それでも



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