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「兼業小説家志望」(仮題)8コラボ小説


前回までのお話は、こちら ↓


「とりあえずビールでいいかしら?」

先日、亀井と座った一番奥のテーブルに緊迫した面持ちで亀井と早川二人が座るのと同時に真理子が尋ねた。返事の代わりに頷く二人を確認してから手を上げて、カウンターに向かって目配せをする。
まもなくボーイの田中が平穏を装いながらも好奇心に満ちた目で、銀盆にビールと二人分のグラス、真理子のグラスワインをのせて現れた。真理子はそれを受け取ると二人のグラスにビールを注ぎながら口を開いた。

「亀井さん、やっぱり辞めちゃったのね、会社」
「あ…分かっちゃうか」
「分かるわよ、そんな無精髭生やしてたら、誰だって。でも殺されてなくて良かったわ」
「真理ちゃん、それがさっ」
言いかけた亀井を早川が制した。
「まだ…無事なだけですよ。あ、はじめまして、僕は現代討論社の早川と言います」
出されたビールに口もつけずに姿勢を正していた早川が、殺される予定の亀井よりも深妙な面持で、名刺を真理子に差し出した。
「現代討論社、早川さん…現代討論社って、亀井さんに『殺されますよ』って言った、あの…」
「そうです!渡邉は僕の上司でした」
そこまで話すと早川は、小ぶりのグラスに注がれたビールを一気に飲み干した。どうやら飲めない方ではないらしい。

「『でした』と言うのは、渡邉は、こちらの亀井さんに会った直後に亡くなったんです。ママ、先日の渦巻きビルからの飛び降りはご存知ですか?」
「ええ、新聞はチェックするようにしているし、それに此処から割りと近いから」
「あの被害者が渡邉です」
早川は手元にあったおしぼりで、顔を拭った。

今日は、何度先輩の死を説明しなければならないのだろう。

「ちょっと待って!被害者?新聞には、あれは飛び降り自殺だって」
「僕は殺されたと思っています」

口惜しそうな表情の早川の瞳は充血していた。涙を堪えるのもこれで何度めだろう。
ふんわりと大きくカールさせた茶色の髪をかき上げて、真理子は白ワインを一口飲むと早川と視線を合わせた。

「亀井さんに『殺されますよ』と忠告した当の本人が一番に殺られちゃったって言いたいのよね。それも亀井さんが書いた小説『悪しからず』が原因で」
「そうなります」
「じゃあ、動いているのは国家権力でしょ?相手が大き過ぎて、私では力になれそうにないわ」

それまで黙って聞いていた亀井のグラスを持つ手がプルプルと小刻みに震えだした。
「真理ちゃん、俺だけじゃないんだ!同僚の吉井も夏野恵理子さんも狙われている!」
「でも、残念だけど…何の力にもなれそうにないわ…」
真理子の大きな瞳が伏し目がちに始めて曇った。

「あ〜〜〜〜!俺、何であんな小説書いちゃったんだろう!!」

大声を張り上げ、今まで抑えていた亀井の感情が爆発した。隣に腰掛けていた早川が彼の膝の辺りを優しく押さえて、冷静に一言付け加えた。

「多分、その暗殺リストの中に今夜、俺も加わりました」
「えっ?」
真理子と亀井が一斉に早川を見つめる。
「さっき、亀井さんのアパートの近くをうろつく、うちの編集局長を見たんですよ」
「それだけで、早川さん、貴方まで殺されるって…」
真理子が率直な疑問を早川にぶつけた。

「いえ、僕は今、渡邉さんが遺した最期のメッセージを持っている。この書類を手に入れる為に今日一日を費やしたと言ってもいい。選ばれたんです。使い捨ての社員として。国家機密を知った者は殺られる」
「俺は仕方ない…いや、仕方なくはないか。死にたくはないけど、元は俺が書いた『悪しからず』が原因なんだから。だけど、吉井と恵理子さんには何の罪もないじゃないか!それに今度は早川さんまで」

真理子のつぶらな瞳がいっそう大きく見開かれた。

「恵理子?ねぇ、さっき亀井さん、確か夏野恵理子って言ったわよね?」
「あぁ、ちょっと俺、好きだったんだ。でも夏野さんは、早川さんの話によるとどうも吉井の彼女だったらしい」
真理子は亀井の恋心には関心を示さずに二人を交互に見た。
「写真!彼女を確認出来る物、何かないかしら?」
彼女からさっきまでの『我感せず』と言った平静さは、消えていた。
「あ、ありますよ!亀井さんの会社の野球大会で隠し撮りした写真が!」
答えたのは早川の方だった。
「見せて、早く」
黒のビジネスバッグから茶封筒を取り出すと、ガラステーブルの上に数枚の写真が広げられた。暫くの間、食い入るように見つめていた真理子が顔を上げて震える声を上げた。
「妹よ!私が中学の時に別れた私の妹だわ」
「えっ」
今度は亀井達が驚く番だった。
真理子は自分自身へ落ち着きを取り戻させようとするかのように、ゆっくりと話し始めた。

「私達、私と恵理子は幼い頃に両親を亡くしたの。近くに身寄りは居なかったから、二人で施設で育ったわ。ある日、恵理子を養女にしたいってご夫婦が現れて恵理子だけが、もらわれて行ったの。今、思えば…あれが多分…亀井さんが書いた『悪しからず』の一家惨殺事件よ。殺されたのは両親だけだったけどね、私達は、あの場から逃げたの!逃げて逃げて、そして生き残った」
「ちょ、ちょっと真理ちゃん、何言い出してるの?!」
亀井は初めて聞く真理子達の生い立ちに動揺を隠せなかった。
早川が代わりに尋ねた。
「でも、それでは恵理子さんの最近の顔は分からないでしょ?」
「ううん、とっても優しい養父母さんでね、いつも施設に恵理子の写真を送って来てくれていたの。その苗字が確か『夏野』だったって思い出したのよ。私が高校を卒業して施設を出るまで、恵理子の写真はずっと送られて来たわ。まさか、亀井さんの会社に居たなんて。こんな近くに居たなんて…」
真理子の瞳に薄っすらと涙が浮かんだ。
「うん、うん…」
亀井は心の片隅で、だから二人の女性に惹かれていたのかと自分に納得しながら相槌を打っていた。
「おかしい!違うよ、ママ」
早川が憮然とした表情で、その雰囲気を壊した。
「優しい養父母?恵理子さんは、恵理子さんは、」
「恵理子がどうしたの?」

言っていいのだろうか。事件には関係ないことだ。言わない方が、目の前のこの二人をこれ以上傷つけずに済むはずだ。だが、ジャーナリストとしての正義感が、それを拒んだ。早川は事を有耶無耶には出来なかった。

「恵理子さんは高校時代から立ちんぼ、あ、言い方が悪いですね。売春をして学費を稼いでいたんです。大学も、そうして卒業したそうです」
「なんですって!」
一瞬にして真理子の目から涙が消えて怒りと憎しみの色に変わった。亀井も驚愕の表情を隠せなかった。
「そこでうちの渡邉と知り合ったんです」
「ちょっと待って、早川さん。じゃあ、恵理子はそんな思いをして育った挙げ句に、今度はそこで知り合った渡邉さんのせいで殺されるって言うの?」
「渡邉は恵理子さんの話を聞いただけで、恵理子さんに指一本触れていません。それは恵理子さんから聞きました」
「でも殺される羽目になったことに違いはないわ」
「それはそうですが…」
「早川さん、正直に答えて。恵理子が殺されるとしたら、順位は何番なの?」
「残念ながら、トップです」
「……」

真理子の頭の中を赤い戦慄のようなものが渦巻いた。
それは両親が流した血の海のようでもあり、
幼い頃に恵理子にあげた折り紙で作った赤い風車にも似ていた。
「お姉たん、お姉たん」
新緑の中で赤い風車を持ちながら、真理子に向かって走って来る小さかった妹。
幸せに暮らしていると信じていたから、探し出しもせずにそっとしていたのに。
渦巻き…

真理子はガタンと音を立てて、立ち上がった。

「田中さん、私の携帯持って来て」

「真理ちゃん、何を始めるんだ?」
亀井が白いワンピースに身を包んだ真理子を見上げた。
「渦巻きを作るのよ!」
「うずまき?」
「そう!スキャンダルって言う渦巻きをぐるぐる大きくしてタイフーンに変えるの。つむじ風って、考えた方が分かり易いかしら。」
「どういう事ですか?ママ」
ぽかんとしている亀井に代わって早川が尋ねた。

「簡単なことだったのよ。いい?国家機密を知っている人間が少ないから、その口を塞ごうとしているのよ。じゃあ、国中が知ったら、どうなるかしら?秘密では無くなるでしょ?それで国民全部を殺すって言うの?」
「あっ」
早川と亀井が声を上げた。

「国家権力には逆らえない。でも私達は情報を広げる事は出来るわ。いい?今から私が知ってる編集者、テレビ局員、Youtuber、人気があるX、ブロガー、思いつく全てのSNS利用者に連絡を取るわ。早川さん、貴方は今から直ぐに流す原稿を書いてくれる?」

「あ、渡邉が遺した資料がここにある!それを参考に」
「俺も書くよ。こう見えて小説家のはしくれだ」

「両親を殺されて、今度は妹までなんて…許せない」
真理子は真一文字に結んだ美しい唇をきりりと噛んだ。


つづく



これ、かなり雑なので
情景描写、心理描写、相当直すと思います。
私にとっては屈辱的な仕上がり(泣)


バトンを繋げると言う意味であげますね。
理生さん、20日くらいまでに書けるかな~?その後で修正して投稿しましょう。
よろしくお願いしますm(__)m

























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