「必殺・女あぶな絵師 エマ」原作(未発表マンガ原作作品)

書いては見たものの、売り先のまだ決まっていないマンガ原作です。

もし載せてもいいよ。と言われるメディアの方がいらっしゃれば、幸いです。ご連絡下さいませ。

masaharu.nabeshima119@gmail.com

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『必殺・女あぶな絵師エマ』
(必殺はマズイのであれば再考) 鍋島雅治
#京都駅
中央階段の両側に居並んだ正装のヤクザたち。
「お疲れ様でした!」「お疲れさまでした!」真ん中の花道を降りてくる男。ソフト帽、サングラスにスーツにマフラー。
京本組若頭、真野秀幸(48歳)
部下「おつとめご苦労さまでした!」
苦い顔でペッとツバを吐く真野。
真野 「今にみとけや!あの老害ジジィ!」
と、歩き出す真野のスコープごしの姿の映像。
絵麻の心の声ナレーション以下、(N)
N 『映画などと違って…
射撃の瞬間、銃口は反動で
跳ね上がるためスコープごしに
着弾の瞬間を射撃手は
見ることはできない…』
ブシュ! 空を飛ぶ鳥を写すスコープ。

#・駅前。
真野の額に穴が開き後頭部から噴出する血と脳漿。崩れ落ちる真野。駆け寄る男たち
「カシラッ!」「カシラッ!」
部下「ちくしょう!どっからや!」「探せ!逃がすな!」

#・京都タワー展望台の屋上。ライフルを持った絵麻の姿。着物姿に皮袴、革の弓道の胸宛と言った姿でライフルを持つ女の姿。
獲物をしとめたのを確かめもせず、殺した相手に一瞥もくれずにに銃口をあげる。
N 『だが見ずとも私には分かる。
獲物を確実に仕留めた手応えが…』
ライフルに三味線の偽装をつけて、三味線包みでくるむ。
#京都タワー展望台。
不振人物を血眼になって捜すヤクザたち。
彼らと、はんなりと、すれ違う絵馬。
華やかな着物に亜麻色の髪。抜けるような白いうなじ。皮袴と皮の胸当ては取り、三味線を抱いて、におうような出で立ちである。
まさか、狙撃手が、その女とは思いもせずに切歯扼腕するヤクザたち。
部下 「ちくしょう・・・・どこだ?!」

#・駅前。事件現場
「捜一」の腕章を付けた初老の刑事と、若手刑事の渡辺綱吉(30歳)が他の捜査員や鑑識に混じって検証している。遺体を見下ろし、
刑事 「えらいこっちゃ、京本組若頭が
獲られるとは京都は大騒ぎになるぞ」
射撃場所のビル屋上を双眼鏡で見て渡辺
渡辺 「角度からして、狙撃場所は
あそこか……凄腕だな」
刑事 「オリンピック候補の渡辺(ナベ) でも難しいか」
渡辺 「ええ。目(モク(目撃者))は?」
刑事 「一昨日ライダースーツの女が
目撃されているそうや。
下見かもわからへんなぁ」
渡辺 「周辺をあたってみますか」

#・知恩院前。聞き込む刑事と渡辺。
刑事 「ライダースーツの女
見なかったか?知らん?そうか」
と、渡辺に向かってくる絵麻。三味線を手に艶やかな着物姿。渡辺がじっと見る。
絵麻の後れ毛がチリチリと危険を感じる。
渡辺 「あの~、すいません。ちょっと」
後ろから声をかける渡辺。ピタリと草履の足
が止まってライフル入りの三味線をきゅっと抱く。ふりかえり、にっこりと笑う絵麻。
絵麻 「へい。なんどっしゃろ?」
ーーー時間経過ーーーーーー
渡辺 「ご協力ありがとうございます」
絵麻 「ほな…」
と、クンと匂う渡辺。
渡辺 「実はさっき気になって
足をお止めしたのは
この臭いなんですが、
これは…お香ですか?」
刑事 「すいませんね。
こいつ、警察犬なみに
鼻がきくんですよ」
袂から匂い袋を取り出し、
絵麻 「しやったら、
この匂い袋やと思いますけど」
渡辺(心)『いや、他にもかすかに…」
これはなんだったけか……
嗅ぎ覚えのある』
刑事 「おい渡辺(ナベ)行くぞ」
渡辺 「あ、はい。」
渡辺 「ども!すません!
ご協力感謝します」
頭を下げて走り去る渡辺。
三味線を抱く手を緩め、後れ毛を直す絵麻。

#・京本組長宅・庭に大きく開いた大広間。
豪華な日本庭園に向かって、筆を握る絵麻。
右の襟を抜いて諸肌を脱いでいる。
胸にはさらしを巻いている。
額に汗し、真剣に下絵を何枚も書いている。
その後ろの段上がりに敷き布団に座り、酒を呑んでいる老人。豪華な寝間着をだらしなく着て、痩せこけ、腹だけが飛び出ている。
京本組会長、志賀野勝利(50)
組長 「売りこみに来た画商の話では
アンタの描く、あぶな絵を見たら
どんな薬でも勃たへんかった
不如意(インポテンツ)
が治るそうやな」
庭には、縛られた美しい舞子が、あられもない着乱れた恰好で桜の木からつり下げられている。悲しげな表情で涙を流している。
絵麻は、その姿を、墨で何枚も写し取っているのだ。
広間と庭の間に大きなガラスがはまっている。
絵麻 「あのガラス戸に光が反射して
邪魔です。開けてくれませんか?」
組長 「あかん。あれは防弾ガラスでな。」
庭の先は裏山の見事な借景になっているが、
たしかにそこから狙撃されたら無防備である。
組長 「わしの命を狙っとる奴は
ぎょうさんいるさかいなぁ
めったに開けられへんねや、
先日もうちの若頭が獲られた
ばかりなんや。うひゃひゃ」
組長 「あんさんも、プロの絵師なら
どないかしなはれ」
絵麻 「承知……しました」
絵麻はそれを、暗喩的な挑戦と受け取った。

#・絵麻の家、鳥辺野あたり。和の一軒家。
その仕事場。八畳ほどの和室である。紙や絵道具が散らばる。向かい合う渡辺と絵師。
お茶を出す絵麻。
絵麻 「どうぞ」
渡辺 「刑事の勘と言うか、
どうにもあなたの事が気になって
ほうぼう、探し回りました」
渡辺 「茨木絵麻さん。
日本画家さんなんですね」
絵麻 「画家なんて
たいそうなもんやおへん。
絵師です。依頼されて屏風絵や襖絵、
浮世絵、なんでも描く職人です」
渡辺 「あなたとすれ違った時の
あの匂い…
実は後で思い出したんです
あれは…火薬の匂いじゃ
なかったかと」
絵麻 「火薬?」
渡辺 「ええ」
二人の間に緊張が走る。魔が通る。
絵麻 「ああ、それなら、
きっと絵の具の匂いでしょう」
絵の具皿を、差し出す絵麻。
絵麻 「浮世絵に用いる
この「丹」と言う朱色は
鉛に硫黄と硝石を加えて
焼いた物ですから」
差し出された絵皿の匂いを嗅いで、
渡辺 「なるほど、この匂いだ!」
渡辺 「硫黄と硝煙は
火薬にも使われますからね」
渡辺 「これは大変、失礼しました」
絵麻 「いえ、お役目ご苦労はんです」
渡辺 「あの…その絵、すごいですね」
絵麻の背後の描きかけの屏風絵を見て目を見開く渡辺。描きかけの火車の絵である。凄まじい業火焔に包まれた車を追い立てる恐ろしい牛頭馬頭
但し、書きかけでまだそれを引く獣も、車の中の亡者の姿も書かれてはいない。
絵麻 「これは火車といいまして」
絵麻 「閻魔大王が裁くまでもない
極悪人を、この世から直に地獄へ
連れて行くための火の車です」
微笑む絵麻、ツバを飲み込む渡辺
渡辺 「は~ぁ…怖ろしい絵ですねぇ」
関心しきりに目を離さずにズズッと茶を飲む。

#・絵麻の家の作業場。
一人、屏風絵を描き上げる絵麻、絵筆を置いて髪に刺した簪を取る。
絵麻 「よし…仕上げや」
簪の切っ先を、ぶすっ!なぜかできたての屏風絵に突き刺す絵麻。

#・夜。組長宅広間、夜具がしいてある。
縛られた舞子を指と舌で、もてあそぶ組長。
組長 「も、もし、わしの摩羅の不如意が
なおったらお前の処女(おぼこ)を
いただくのや、それがわしの夢や。
お前をワシの最期の女にするんや」
舞子 「堪忍、堪忍どす」はらはらと泣く。
手下 「組長、あの絵師が、絵を披露する
用意が出来たそうです」
組長 「おお、どこや?」
手下 「庭に置いて帰りました」
組長 「庭に?」
襖を開けると桜散る庭に、屏風が立ててあり、ライトアップされている。
火車の中に、縛られた舞子の姿がある。
その舞子は、地獄の業火に炙られながらも、なお美しくなまめかしく儚く、ぞくぞくするようなあぶな絵である。
組長 「おお…こら…すごい!」
よろよろと立ち上がり、
組長 「もっと近くでみたい!」
リモコンのスイッチを押す組長、防弾ガラスのドアは横にズーと開く。
手下 「組長、あぶのおます」
組長 「大丈夫や。夜やし、屏風ごしで
こちらの姿は見えへんがな」
組長 「おお」「おおお!」
絵にくっついて興奮して見る組長。
褌を持ち上げそそり立つ男根。
組長 「おおお!噂どおりや!
勃ちよったぞ!」
火の車を曳いているのは、やせ衰えて腹のふくれた一人の餓鬼である。ふとその顔を見る組長。自分の顔である。
組長 「この餓鬼の顔…こりゃワシか?」
裏山の木の上。木の股に乗り、ライダースーツ姿でライフルを構える絵麻。屏風に開いた小さな穴から居間からの光が一筋、屏風の裏側に漏れている。

#・回想・絵の仕上げのシーンの続き。
襖絵の餓鬼の目に簪を刺す絵麻。穴を穿つ。
絵麻 「これで、ええ」

#・回想終わる。組長宅。庭園に戻る。
顔を餓鬼の顔に寄せる組長。
組長 「やっぱ!こらワシやないか!
あのアマ絵師!どういうつもりや!」
屏風裏の一筋の光が、組長の影でふっと消える。
ドシュ!ライフルが火を噴く。
ぼすっ。屏風の餓鬼の顔に穴が開き、
組長の体が後ろに吹っ飛び、桜の木の幹にぶつかり崩れ落ちる。
手下 「ひぃいいい!誰か誰かぁああ」
着乱れた姿で、桜の下の死体の前に立つ舞子。
頭の上半分の吹き飛んだ死体はまさしく餓鬼のようである。死体を見下ろし泣く舞子。
舞子 「…お父はん……」
桜の花が夜にあやしく、散りかかる。

#・茶室。
絵麻と画商(殺しの仲介人)逢魔堂・和服の恰幅の良い初老の男。岩下尚史のイメージ。
逢魔堂 「今回の『絵の代金』でございます」
札束を包んだ、ふくさを差し出す逢魔堂。
逢魔堂 「おほほ!でも、まさかあの組長、
まさか若頭殺しを依頼した貴女に
自分も狙われているとは
思ってもいなかったでしょうねぇ」
絵麻 「両天秤とは逢魔堂さんも
お人が悪いですね」
逢魔堂 「やだぁ画商骨董美術商に
両天秤や二股膏薬はつきもの…
あないな外道…」怖い目になって、
逢魔堂 「地獄へ堕ちて当然でおます」
逢魔堂 「それはそうと、
組長殺しの依頼主である
舞子の母親がそれはもう~
たいそう喜んでいましたわよぉ~」
逢魔堂 「血を分けた実の娘への
妄執に取り憑かれた
父親とともに、娘が畜生道に
墜ちるのを救ってもらったと」
逢魔堂 「また功徳なさいましたわ絵麻さん」
絵麻 「功徳?…ですか…」
皮肉な笑みで、お茶を飲む絵麻
逢魔堂「そうですわ鬼退治の人助ですわ」
絵麻 「鬼はどちらでしょうね」
庭の池花筏を見る絵麻。

#・六道の辻。夕暮れ時。
聞き込みする刑事と渡辺。
ドドドッド!渡辺とすれ違う古いドカッティ900SS。きっ!と停車して、またがったライダースーツの女が振り返り、肩越しに渡辺を見る。背中に三味線を背負っている。
渡辺 「絵麻…さん?」
ジェットヘルのゴーグルを上げて、にこり。会釈する絵麻。
絵麻 「へぇ、お三味の出稽古の
帰りですねん」
絵麻 「ほな、ごきげんよお、刑事はん」
笑って走り去る絵麻。ドドドドド。
見送る渡辺、首をかしげ
渡辺 「やっぱり、この臭い、絵の具の
臭いと似ているけど
少し違う気がするんだよなぁ…」
と、警察携帯電話(Pホン)が入る
渡辺 「え!?殺し?ん、ん、
また遠距離からの狙撃ですか!?」
絵麻の残り香を嗅ぎながら、遠く夕山を見る。
終わる。
★屏風絵・河鍋暁斎の「地獄極楽図」のイメージ。平安時代の牛車が火に包まれ、御簾がまくれ、焼け落ちて中に乗った半裸で縛られた姫が炎に嬲られているような苦悩の様。
周囲に牛頭馬頭、鳥山石燕作の「火車」のようなイメージ。車を引っ張っているのは餓鬼。
その顔がよく見れば、組長の顔である。と、
★地名。一応設定してありますが京都らしく絵になる場所ならばどこでも宜しいかと。

河鍋暁斎の「地獄極楽図」

宝泉寺蔵地獄極楽図

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