築地魚河岸三代目 「上目使いのカレイ」

築地魚河岸三代目。「上目使いのカレイ」後編。

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ちなみにこの話は実際に取材した「魚河岸」での常套句を基にしたもので、魚河岸では場内市場(ナカ)と場外市場(ソト)を明確に分けていて、場外市場は素人さんむけの一般売り市場。場内市場は玄人向けのまさしくプロの目利きと取引の行きかう場所、戦場と位置づけています。

なので魚河岸には「魚河岸(場内・ナカ)じゃあどんな嘘でもついていい。だまされるのはバカなんだ」という言葉があります。

一見ひどい言葉に思えますが、「生き馬の目を抜く」江戸っ子らしい諧謔とプロ同士の戒めの言葉でもあります。うんと要約すると「ボヤボヤするねぇ、このすっとこどっこい!」とでも言い換えましょうか。

今般、魚河岸の場外の、そのまたソトでの嘘と駆け引きが多すぎるような気がしますが。そんなこととは関係なく本作はお楽しみくださいますよう。


#・『魚辰』朝の風景。
店前の路地につけた小車。その上に縛り付けたプラスチックのコンテナは水で
満たされ、中に、たった今仕入れてきたヒラメが、何匹も入っている。
旬太郎と、拓也が軍手をした手を水に差し入れ、ヒラメを一枚一枚取り出し、
英二の立つ前の水槽に投げ入れていく。「ほい」「ほらさ」。飛び跳ねる水し
ぶき。
拓也の手に挟まれたヒラメは、大人しく水槽にスルンとすべり込むが、旬太郎
の手の中のヒラメは暴れて、盛んに左右に身を振る。なかなか水槽に入ろうと
しない。
旬太郎「おっとっと!
   どこ行くんだっ!
   大人しくしてくれよ」
持て余す旬太郎に、次のヒラメに取りかかりながら拓也。
拓也「三代目。あんまし暴れさすと
   身が傷むし、味が落ちるっスよ!
   魚に、持たれてると
   気付かれちゃダメっス!」
旬太郎「ゴメン!・・とは、いっても
   これが、なんとも、ヌルっと・・」
英二の目が、旬太郎が苦戦する、そのヒラメを見て光る。
英二「三代目。それは、こっちへ」
旬太郎「あ、はい!
 よっと!。」
指名されたヒラメを、水槽の手前に置かれた、分厚いまな板。というより、年
期の入った傷だらけの材木の上に、放り出すように置く旬太郎。
そのヒラメを、英二は、すっと片手で押さえるや、エラの後ろあたりと、尾の
付け根に、ダン!ダン!と包丁を入れ、エラの後ろの切れ目から、針金を延髄
に突き通す。
ビク、ビクン!と絶命のエクスタシーに震えるヒラメ。
脇の、トロ箱に入れて、適量の氷をザラザラッと、かけ回す。一連の流れるよ
うな所作である。見惚れる旬太郎。
旬太郎「相変わらず見事な
   活きジメの手際だなぁ」
拓也「ただ早いだけじゃないっスよ
   英二さんは、俺たちが、
   水槽に投げ入れる側から、
   魚の状態を見抜いて・・・」
言っている側から、水槽に既に入っているヒラメを、手でさっと掬いだし、裏
を返して、鋭い目で確かめる英二。
拓也「今日の注文と、あわせて
   どいつをシメるか瞬時に
   判断しながらの、
   手際の早さッス!」
ダン!と包丁を振り下ろす英二。プロの横顔。
旬太郎「プロだなぁ~」
笑う拓也。気軽に、
拓也「ハハハ。何、シロウトみたいな事
   言ってるんスか!」
すっ。と眉の曇る旬太郎。俯き、
旬太郎「シロウトかぁ・・」
拓也「あ・・」
旬太郎の気持ちに気付き、慌てて口に手を当てる、拓也。
昨日。怒り心頭で『千満』に怒鳴り込んだものの、体よくあしらわれ、更に、
居合わせた築地のサラブレット、新宮の一言に、グウの音も出なかった旬太
郎。
旬太郎の後を追いかけて、図らずも、物陰から、それを盗み見てしまった拓也
の回想。

#・拓也回想・前回のシーン。
バン!と迫力の千田。ヤクザ顔負けの迫力で、
千田「仕入は目の利かねぇヤツ!
   ダマされるヤツが悪ぃのよ!」
寸鉄人を刺す、新宮の目と言葉。
新宮「あなた、三代目じゃない
   ただのシロウトだ。」
がぁあああん!とショックの旬太郎。
震える拳を握りしめ、ぐっ!と唇をかみしめ、返す言葉もなく、屈辱と、悔し
さに満ちた旬太郎。物陰から、イキサツを目撃しながらも、かける言葉もない
拓也。
拓也『三代目・・・』

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