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卑怯者(1話目)

「目が覚めましたか、高田総務大臣」
頬を冷たい刃物か何かで叩かれながら、高田は目を開けた。しかし、すぐには視界がハッキリせず、自分が何処にいるのかがイマイチ理解出来なかった。手を動かそうと思った時、自分が縛られている事に気付いた。


視界も徐々にハッキリしてきて、自分が置かれている状況を理解してきた。どうやら俺は何処かの馬鹿どもに拉致監禁されているらしい。目の前にはカメラが設置されていることから、この状況を録画するのか配信するのかするようだ。

「俺が誰だか分かっているのか?一体、俺をどうしようというんだ。」
高田は隣でナイフを片手に持って立っている男に問いかけた。
しかし、その男は微動だにせず、こちらからの問いかけには一切なんの反応も示さなかった。

「今ならなんの罪にも問うことはしないでやるから、早く俺を解放しろ。俺は忙しいんだ。」
高田は今度は部屋中に響き渡るような大きな声を出した。


すると、隣にいた男が、
「そんな大声を出さなくてもしっかりと聞こえているよ、高田総務大臣。大声を出しすぎると怖がっているのがバレてしまいますよ。」
と声を発した。ただ、その喋り方からその男の言葉ではなく、誰かの発言を繰り返しているように感じた。

「話が通じる人間がいて良かった。俺を大臣だと分かっているなら話が早い。俺はとても忙しいんだ。早く俺を解放してくれ。」
すると、隣にいた男が大臣の耳にイヤホンを差し込んできた。するとイヤホン越しから声が聞こえてきた。

「ここからは直接、私がお話しましょう。私だって暇人じゃないので、早くこんな仕事を終わらせたいのでね。まず初めにあなたに約束をします。絶対に私たちはあなたの身体を傷つけるような事は絶対にしません。この先何があっても、傷つけられる事はないとご安心ください。」

「人を拉致監禁するような連中の言う事など信用できるか。」
「大臣が信じようと信じまいと私には関係はありません。これは私が仕事をする上で大事にしているルーティーンの一つなので。ただ一つ良い事をお伝えしましょう。私の約束を信じた人は無事に解放されましたが、約束を信じず暴れ出した人たちは多かれ少なかれ傷を負ってしまいました。頭の良い大臣なら、この言葉の意味が理解できると私はあなたを信じていますよ。」

「分かった。君の事は100%信じる訳ではないが、現時点では君の事を信じることにしよう。で、君の依頼主は君に何を頼んだんだ?」

「さすがは大臣を任される人間だ。人質が賢いと、こちらも仕事がスムーズに進むから助かるよ。高田大臣にして欲しい事はただ一つ。今から目の前に置いてあるカメラを通じて、今のあなたの姿を日本中に配信する。隣に立っている男があなたをナイフで脅すが、それは演技であり本当に刺すような事はしないから安心して欲しい。あと、お前の口を塞がさせてもらう。配信は2時間くらいで終わらせる予定だから、その間は多少息苦しいかもしれないが我慢してくれ。では、3分後に配信を始めるから諸々、よろしく頼むよ、高田大臣。」

話が終わるや否や、隣に立っている男が俺の口を塞いだ。

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