算命学余話 #R80「天報星を基礎から考える」/バックナンバー
ウラジーミル・メグレ著『アナスタシア』シリーズが提唱する数々のユニークで感動的な人類への処方箋によれば、「神の似姿」たる人間がかくも堕落し無知蒙昧な生き物になり下がった原因のひとつは、「赤ん坊の誕生の瞬間とは出産の瞬間である」と人類が勘違いしていることにあるそうです。つまり世界の多くの占星術が出生の瞬間として重視している誕生日や生年月日は、そもそも子供の誕生した瞬間ではないので、重視するのはお門違いだというのです。
これを聞いた算命学者はどう思うでしょう。算命学は言わずと知れた、生年月日を宿命として運勢を論じる学問です。学習者の皆さんは焦ったり反発したりしましたか。私は特に驚かず、その通りだと思いました。なぜなら算命学における生年月日とは、本来その人がこの世に生まれ落ちた瞬間の自然の風景であって、それを別の言い方で「誕生の瞬間」と呼んでいるに過ぎないからです。
算命学にとっての生年月日とは陰占三柱のことであり、それはその日の陰陽五行の自然風景を表した絵図そのものです。そこに水があるとかないとか、季節はいつだとか、木と土が拮抗しているとか、そういう情報が描いてある。言い換えれば、そうした情報はその人が持って生まれた武器であり、長所であり短所です。その人がこの自然界に生まれた瞬間に、自然が持たせてくれた最良の武器。但しこの武器の使い勝手には長短があるため、その使用に練達するには、人生を実際に歩みながら実践していくしかありません。算命学の定める生年月日(宿命)とはそういうものであり、確かに「子供が生まれた瞬間」という時間を表す意味ではほとんど使われません。
アナスタシアによれば、人間の誕生には3つの段階があるとします。1番目は受胎の瞬間、2番目は妊娠期間、3番目がようやく出産の瞬間です。この中で最も大事なのは1番目の受胎の瞬間であり、ここでヘマをやらかすと生まれた子供はアホ、失礼、無知蒙昧で同じ過ちを繰り返すばかりの人間、つまり現代社会に溢れかえっている一般的な大人に育つといいます。随分ですが一大事ですね。ではそのヘマとは何なのか。
詳しいことはお手数ですが本を読んで頂くとして、かい摘んで言うと、男女が何も考えずにセックスに耽って生まれた子供はそもそも間違いだということです。正しい受胎には、まず男女共に相手との子供が欲しいと切望し、且つ生まれて来る子供がどんなに素晴らしい大人に成長するか、その夢のプランを細部に亘って練りに練ってイメージトレーニングすることが前提条件として必要だそうです。
うーん、確かにそんなプロセスを経て生まれて来る人は現代にはいないように思われますし、できちゃった婚をはじめ、「子は授かりもの」として両親の意志とは関係なく授かるものだというのが一般的な解釈です。でもそんな風に生まれた子供は利口でないので、歴史上繰り返されてきた人類の苦しみを一向に減らすことはできない、というのがアナスタシアの主張であり、こうした彼女の考えが世界中の読者を唸らせています。故に、子供をそっちのけにした安易なセックスを促す現代社会の風潮や商業主義は、悪だと。
この一番大事な受胎の瞬間こそが人の誕生の瞬間である、というのがアナスタシアの思想です。最初で間違うと全てが台無しになるからです。次に大事なのが2番目の妊娠期間で、ここもやっぱり正しい過ごし方をしなければならない。そして最後が3番目の出産の瞬間ですが、2番目と3番目はセットになっているので、出産の瞬間はほぼ惰性です。世の中はこの惰性の通過点にすぎない誕生日を重視しすぎている。それよりも受胎の瞬間の方が何百倍も大事であるというわけです。
さて、このユニークな思想を取り上げたのは、算命学がこの主張に反しないからです。見過ごされがちなことですが、算命学は受胎の瞬間の動機というものを大変重視しています。それは天報星の意味するところと通じ、この星の理解を進め、星を輝かせる手立てとなります。
今回の余話はこの受胎の重要性、ひいては人間を形作る基礎を左右する天報星について掘り下げてみます。天報星は言わずと知れた十二大従星筆頭、「胎児」の星です。胎児はまだこの世に生まれていないため、あの世の存在です。それは天庫星(死人)・天馳星(彼岸)と共に精神世界の住民であり、霊星であるということです。こうした非現実の星を運勢鑑定の実践でどう捉えて行けばいいのか。アナスタシアの思想と絡めて考えてみます。
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