算命学余話 #R52「しなくていい」/バックナンバー
十年以上前になるでしょうか、大手製紙会社の御曹司である若社長が5億だか10億だかの会社の金を横領してカジノに注ぎ込み、丸ごとスッたことが発覚して逮捕されたという事件がありました。御曹司は一流大学卒だったので、これほどの愚行をやってのける人物が高学歴であるというギャップがメディアで揶揄され、私もよくもこんな愚か者が大学に入れたものだと呆れたのを覚えています。ところが最近になってこの解釈は間違いであることを知りました。御曹司は会社の金を横領したのではなく、脱税して守ろうとしていたのです。つまり会社に対する背信行為ではなく、逆に利益を守る行為だったと。
真相はこういうことのようです。日本にはまだない合法大型カジノというのは既にチェーン店化されており、世界各地に散らばるカジノ店舗が同系列店だと、その経理も互いにリンクしていて金庫は一緒である。つまりラスベガスのカジノで買ったチップを、マカオの同系列カジノに持って行って使うこともできれば、元のお金に換金することもできる。御曹司はこれを利用して会社の金を持ち出し、カジノAでチップに換える。そのチップは賭け事で使い切ったと見せかけて、実はカジノBで後日換金して取り戻す。すると御曹司は賭けグルイの大馬鹿者とのそしりは受けるが、その実多額の資金を課税されることなく海外へ逃がすことができる。要するに、マネーロンダリングのための銀行代わりにカジノが利用されているというわけです。
近年ではパナマ文書その他の暴露で富豪や企業の巨額脱税が取沙汰されましたが、あの話の続報は聞かれません。同じように製紙会社御曹司の巨額横領事件も、呆れたドラ息子の大損話として話題になった程度で、その事件の真相については世間に報じられていません。類似犯が出るのを防ぐためでしょうか。
いずれにしてもあの御曹司はその学歴に見合った知能の持ち主だったわけです。まさかそんなマネロン手法があるとは我々一般人には思いもよりませんから。そうとも知らず、我々は彼の愚行や学歴社会の弊害だけに着目して安易に嗤っていたようです。御曹司のマネロンの動機が公共福祉の精神に反することを考えれば、勿論褒められた行為ではありませんが、上辺だけの報道を鵜呑みにしてそれを嗤った我々の思考の浅さもまた自慢できるものではありません。
もうひとつ、似たような自戒の話。確か先の御曹司と同じ大学で特別講師をしている若新雄純氏が、「ブラック消費者」という独自の造語を掲げています。2017年のブラック企業大賞はアリさんマークの引越社でしたが、若新氏はかつてアリさんマークを使ったことがあり、実際安いし仕事も早くて丁寧だけど、一点だけ、従業員たちの関係がギスギスしていたことが気になったそうです。おそらくその日何件もあるノルマをこなそうと無理して急いでいるので、そのシワ寄せがきつい言葉になって現れていたのだろうと。消費者にとっては高品質に加えて安ければ安いほど有難いが、これを続けると従業員の負担は重くなる。この事実を消費者側も理解すべきだというのが若新氏の主張です。
若新氏によれば、サービスの質と値段をそれぞれ高低に分け、4つのカテゴリーに分類すると以下のようになります。
A:「品質も値段も高いサービス」=一部の富裕層向け。一般人には無関係。
B:「品質が悪くて高価なサービス」=ぼったくり。騙されなければ被害に遭わない。
C:「品質はいいけど安価なサービス」=ブラック企業の温床。しかし我々消費者はこれに飛びつき加担している。
D:「品質も値段も低いサービス」=今の日本では低すぎる品質だと淘汰されるので、実質は「品質も値段もそこそこ我慢できるレベル」ということになる。
若新氏はDに着目し、例えばセルフサービスの店などをもっと評価して、「安いのだからこれくらいの品質で充分だ」という消費者側の態度を養うべきだと主張。今日の行き過ぎたCの風潮を戒める見解を述べています。
Cを歓迎する我々一般消費者は「ブラック消費者」であり、我々こそがブラック企業を育てている、この認識を広めることでブラック企業を社会から排除できるというわけです。耳に痛い苦言ですが、その通りでしょう。ブラック企業を非難し嗤う資格は、安さを求めてきた多くの消費者にはなかったようです。価値を認めているのならそれに相応しい対価を払うべきであり、品質に見合った対価であるかどうか見極める目と分別が、今の消費者に求められているのです。
年も新たに身が引き締まったところで、今回の余話のテーマは「しなくていい」です。運勢鑑定を依頼される方には、しばしば「改善のために何をしたらいいか」という質問が寄せられます。その要望に応えて助言を出すことは難しくはありませんが、逆にしなくていいのにしていることについては、依頼人本人も自覚していないことが多く、本人から申し出がないと鑑定する側も正しい状況が摑めません。
現状に困っている依頼人が余計な行為を重ねて事態を更にこじらせている、ということはままあることです。その辺りについて、鑑定する側の留意点や対処法について考えてみます。
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