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20歳で天国へ旅立ったバイトの子と「くちばしにチェリー」の話

今回は20歳でこの世を去った女の子とmaronの、少し切ない思い出話です。毒義母とモラ旦那は出てこないので、イライラせずに読めます。

ライブやフェスが次々に中止される中、YouTubeライブや過去映像の配信が行われています。そんなとき、ふと目に留まったのが、公式サイトにアップされていた、EGO-WRAPPIN'(エゴラッピン)の20周年武道館ライブでした。

代表曲は当時ドラマ主題歌になった「くちばしにチェリー」。CDジャケットには、くじゃくのイラストが描かれていました。

私はこの曲を聴くと、ある出来事を思い出します。人懐っこい笑顔がかわいかった、Mちゃんとの思い出です。

ちょっとだけ胸がキュンとなるお話ですが、良かったらお付き合いください。

1. バイト先で出会ったMちゃん

会社員として働いていた20代の私は、お金がありませんでした。理由は簡単です。散財していたからです。一人暮らしにも関わらず毎日コンビニへ行き唐揚げ棒を買って食べたり、洋服を買ったりしていたからです。

私だけが特別だったわけでなく、当時はそんな風にして過ごす若者が多かったような気がします。しかし、とうとうmaronの経済は破綻をきたし、土日を利用してバイトを始めることにしました。

とある飲食店で、ウエイトレスのバイトを始めた私。土日は主婦層が休みなので、学生しかいません。最年長の私は”あの人、大人なのになんでバイトしてるの?”とか陰で言われてるかもしれない…などと思いながらも、せっせとバイトに励みました。

私の予想は見事外れ、バイト仲間はみんないい人ばかり。2か月もするとみんなと打ち解けて、バイトに行くのが楽しくなりました。その中に、私より5歳年下でショートカットがよく似合うMちゃんがいました。

Mちゃんはダイエットが趣味で、店で出される賄いにもほとんど手を付けないような子でした。私よりずいぶん細いのにな…と不思議でしたが、いつも元気だったのでその時は気にも留めなかったのです。

2. maronとMちゃんの交流

40代の5歳差なんて1か月くらいの差にしか感じませんが、20代の5歳差は大人と子供くらいの差を感じるものです。私も5歳年上の先輩を「酸いも甘いも知り尽くした女」と思ってたので、その子が私を慕っているのもなんとなくわかりました。

スプーンの入ったカトラリーを床にぶちまけ、店中に金属音を響き渡らせる私の、どこが大人なのかは分かりません。でもAちゃんは「maronさん~!一緒に帰りましょう~」といつも声をかけてきました。

Mちゃんは八重歯とえくぼが印象的な、人懐っこい笑顔の子でした。休憩時間が一緒になると、よく彼氏や音楽の話をしていました。

3. 「そのCD貸してください!」

バイトを始める少し前に、たまたま聞いていたラジオでエゴラッピンを初めて聞きました。「かつて…」というその曲は、ムードたっぷりのサックスソロではじまります。20代の私は独特の雰囲気に一気に取り込まれ、給料日のたびにアルバムを買いました。

もちろん「くちばしにチェリー」が発売されると、すぐに手に入れて毎日聴きました。そしてバイト中にMちゃんとその話になり、CDを持っていると話したのです。

「私もその曲好きです!よかったらCD貸してくれませんか?」

今と違い、配信やYouTubeがメジャーではない時代。新しい音楽を聴くためには、CDを買うかレンタルショップで借りるかしかありません。

単純な私は同じ曲が好きなだけで嬉しくなり、二つ返事でCDを貸しました。

4. 突然バイトに来なくなったMちゃん

それから1週間くらい経った頃です。Mちゃんは、突然バイトにこなくなりました。バイト仲間に聞くと、連絡が取れないといいます。最後に会った日はいつも通り元気だったのに…なんとなく胸騒ぎがします。

でもMちゃんが、バイトにこなくなった理由はすぐにわかりました。Mちゃんの1つ上の女の子から、自宅で亡くなったと聞かされました。

リビングの床に倒れているMちゃんを見つけたときは、もう心臓は動いていなかったといいます。

Mちゃんは年上の元彼氏を吹っ切れずに、悩んでいたそうです。もっと痩せてキレイになれば復縁できると信じて、個人輸入でやせ薬のようなものを取り寄せて飲んでいたと聞きました。

5. 人生は不公平と知ったあの日

私は相変わらず、週末のバイトをシフト通りに続けていました。ある日、最後のお別れができなかったバイト仲間達が、自宅にお邪魔するというので私も同行させてもらうことにしました。

Mちゃんは額縁の中で、八重歯を見せて笑っていました。もうMちゃんと他愛ない話ができないなんて、まだ信じられません。

ふと横を見ると、もう一枚大きな額縁が飾られています。あでやかな赤い振袖を着たMちゃんが、こちらを向いて笑っている写真でした。

なぜMちゃんが天国へ行かなければならないのか…。寿命といえばそれまでですが、不公平すぎてしばらく受け入れることができませんでした。

帰宅後、MちゃんからCDを返してもらっていないと気づきました。なんだか急に悲しくなり、シクシクと部屋で泣いたのを覚えています。

すべてを通り過ぎて生きていく

長い人生ではときに、予想できない出来事が起こります。昨日まで元気だったMちゃんに突然会えなくなるなんて、思いもよりませんでした。

残された者は日々やるべきことをやり、自分の人生を生きていきます。あの頃のバイト仲間とは散り散りになりましたが、私と同じようにどこかで頑張っているのでしょう。

あれから20年近くたちますが、いまだに「くちばしにチェリー」を聞くと、胸の奥がキュンとします。

Mちゃんが生きていれば40歳の手前。でも私の中のMちゃんは赤い振袖を着たままです。

最後までお読みいただきありがとうございます!私の思いで話にお付き合いくださり感謝です。



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