広瀬和生の「この落語を観た!」vol.64

9月26日(月)「集まれ!信楽村」@ばばん場

広瀬和生「この落語を観た!」
9月26日(月)の演目はこちら。

柳亭信楽『田能久』
柳亭信楽『キッチン』
~仲入り~
柳亭信楽『五貫裁き』

『田能久』はうわばみのドスの利いた感じ、田能久の純朴そうな感じが見事に表現されていて引き込まれる。田能久が山小屋で火を起こすときの仕草が実にリアルなのも感心した。大きなおにぎりの中には梅干しが入っているのも仕草でわかる。地の語りは持ち前の“良い声”を活かしていて気持ちがいい。サゲは「久兵衛さんは千両役者だ」。

『キッチン』は創作割烹の店の“伝説の料理人”の噺。注文が入って厨房で調理する料理人の、鮮やかな包丁さばきや豪快な炒め方、手の込んだ味付けなどの仕草から想像されるものと、実際に出来上がったものとのあまりのギャップが創造の遥か斜め上を行き、その繰り返しがエスカレートしていくバカバカしさに笑いが止まらない。「仕草で笑わせる」という着眼点に信楽の天才的な閃きを感じる傑作だ。

『五貫裁き』はルーツが柳家三三であることが明確にわかる高座。台詞回しだけでなく、語り口の端々や仕草までもがもう完全に柳家三三で、それが実に堂に入っている。ここまで三三リスペクトに徹していると痛快だ。そもそも、三三の語り口を真似ようとしてもなかなかできるものではなく、大抵の三三フォロワーは失敗するものだが、信楽がここまで見事に演じているのは、当人が持っている資質によるものであるのは明らか。つまり、こういう講釈ネタをやるのが信楽には似合っているということで、まだ今は“三三のまんま”ではあるけれども、これを土台に磨いていけば、真打になる頃には立派に“信楽の語り口”が確立されていくだろう。既に新作落語の独創性では他を圧倒するものがある信楽に、こういう面もあるとわかったのは嬉しい。こうなったら、どんどん三三の大ネタを自分のものにしていってほしいものだ。もちろん、バカバカしい新作を量産して爆笑させ続けながら、ということだが、それが出来たら凄いことになる。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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