広瀬和生の「この落語を観た!」vol.114

12月22日(木)
「集まれ!信楽村」@ばばん場


広瀬和生「この落語を観た!」
12月22日の演目はこちら。

柳亭信楽『ガマ仙人』
柳亭信楽『俺の夢』
~仲入り~
柳亭信楽『明烏』

『ガマ仙人』は2021年の立川こしら企画「ご当地落語」で信楽が赤倉温泉の馬頭観音で『ガマ仙人と鉄拐、術比べの図』を見て作った噺。ある少年に「自慢できるような凄い友達が欲しい」とせがまれた和尚が「仙人様とお友達になるのはどうだ?」と言って「ガマ仙人と鉄拐、術比べの図」を見せる。和尚は観音様にお祈りすれば友達になれると言い残して去り、一人残った少年の前に「私は君の新しい友達のガマ仙人だよ」と絵そのままのガマ仙人がガマガエルを肩に乗せて出てくると、少年に「気持ちが悪い! 絵の中に戻ってよ!」と嫌われてしまう。それでも友達が欲しいガマ仙人。「私はね、子供の頃から友達が出来なくて、目立とうと思って肩にガマガエルを乗っけたんだよ」「そんな理由で!?」「そんな理由だよ。私も気持ち悪いけど、中国だからそれくらいしないとね。いつの間にか皆が“ガマ仙人”と言うようになって」「陰口じゃん!」「陰口だよ」といった不毛な会話で浮き彫りになるガマ仙人の間抜けなキャラが、ひたすら可笑しい。「鉄拐仙人は友達じゃないの?」「口も利いたことないよ」「でも同じ絵の中に」「私が写り込んじゃただけだよ」「絵でもそれある!?」「中国だからね」「気まずくないの?」「気まずいよ」「絵の中で気まずいって何だよ!」といったやり取りのバカバカしさに爆笑。信楽お得意の“ヘンなおじさん”系の傑作だ。

『俺の夢』は、久々に再会した昔の同級生とバーに行き、「人生を見つめ直して、もう一度夢を追いかけようと思うんだ」と言い出した男の噺。「夢を追うのもいいじゃないか。応援するよ」「ありがとう。俺はこのまま会社の犬でいたくないんだよ」という普通の会話からの、「俺、開こうと思うんだよ、幕府」というトンデモな急展開! 「幕府って、本気か? お前もう四十だぞ」「家康だって六十で幕府を開いたんだ。まだ二十年もある」「そういう問題か?」「簡単じゃないのはわかってる。でも、家康も俺も同じ人間だ」「会社は?」「辞めたよ。そのうち幕府で食っていこうと思う」「幕府って、食えるのか?」「幕府だからな」……と、この調子の会話が延々と続く。「幕府」という単語が出てきた瞬間が笑いのピークになるのが普通だが、その出オチみたいなネタで延々と引っ張っていって一編の落語に仕立てるのが信楽の天才的なところだ。幕府を開くというこの男に、いつの間にか友人も協力することになり、「この年になって、副将軍と呼ばれることになるとはな」と笑う。この先の、二人が具体的に何をして人々に幕府を認めさせるか話し合う会話がまた、とんでもなく可笑しい。信楽のセンスが凝縮された逸品だ。

『明烏』は語り口がきちんと江戸落語になっており、妙に気取った“癖”がないので好感が持てる。信楽は声が良いので聴き心地が好く、演技力があるので源兵衛と太助のチンピラ感とウブな若旦那の会話もリアル。信楽の演技力なら、素直に演じるだけで“現代の観客が楽しめる古典”のテイストが醸し出せるのが強み。自然に“世界”に入り込める『明烏』だ。


次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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