広瀬和生の「この落語を観た!」vol.50

8月29日(月)
「三遊亭兼好独演会」@町屋ムーブ

広瀬和生「この落語を観た!」
8月29日(月)の演目はこちら。

三遊亭けろよん『狸札』
三遊亭兼好『禁酒番屋』
~仲入り~
三遊亭好二郎『お菊の皿』
三遊亭兼好『鰻の幇間』

兼好の『禁酒番屋』は“侍に翻弄される町人”にスポットを当てた演出。油屋の件では「いくら町人が愚かとはいえ徳利で酒を持ってくるわけはあるまい。通ってよいぞ」と言われて無事に通過、と思った次の瞬間「ところで今年の油の出来はどうだ?」と訊かれ、うっかり「喉ごしスッキリ」と答えて露見する。この軽さが兼好らしくて楽しい。侍に一矢報いる町人の逞しさが爽快な一席。

『鰻の幇間』では二階の座敷に膳が運ばれてきて飲み食いする場面で“何度も箸を割っては首をかしげて別の箸に手を伸ばす”“一八が酒を飲む器の形状が何かおかしい”“鰻を食べながらやたらに骨を口からつまみ出す”等、仕草でこの店の酷さを暗示。客が帰ったと知って「茶漬けして食っちゃおう」となるのも鰻の硬さを間接的に表現している。勘定書きを持ってきた女中に文句を言う場面では相手の対応がいちいち可笑しい。この女中は一八が幇間だと気づいてからかっている気がする。客が土産に持って帰ったのは“特上”三人前。一八が食べた骨だらけで硬い鰻とはおそらく別物なのだろう。客には逆らえず店では軽く見られる“幇間の悲哀”を、笑いの中で鮮やかに描いている。“店の酷さ”を示す幾つもの事例にも独創性があって意表を突くが、この噺のテーマはあくまで“幇間の悲哀”なのだということを明確にしている見事な演出だ。


次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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