広瀬和生「この落語を観た!」vol.22

7月21日(木)
「三遊亭兼好独演会」@伝承ホール

広瀬和生「この落語を観た!」
7月21日の演目はこちら。

三遊亭兼好『桃太郎』
三遊亭兼矢『やかんなめ』
三遊亭兼好『大工調べ』
~仲入り~
三遊亭兼好『へっつい幽霊』

『桃太郎』で金坊が「お供が猿、犬、雉だった理由」として「鬼門は丑寅の方角、それを退治しに行くんだから反対の方角の未(ひつじ)が桃太郎で、お供は申(さる)酉(とり)戌(いぬ)じゃなきゃダメなの」と父に教えるのは、僕は兼好で初めて聴いた。大概は知(猿)・仁(犬)・勇(雉)なので新鮮。父が桃太郎のストーリーで「鬼ヶ島の鬼が“鬼ころし(日本酒)”を飲んでヘベレケだったので」と鬼退治について語るのも楽しい。

『大工調べ』は棟梁がうっかり口を滑らせて大家を怒らせて揉め事がこじれていく過程がリアル。謝りに来たはずの棟梁に当たり前のように「たかが八百、ついででもあれば」と言われたら「ちょっと待て」と言いたくなる気持ちもわからなくはないけれど、言葉尻を捕まえて「門限なんて知ったことじゃない」と依怙地になるのはいかにも因業だ……というニュアンスを見事に表現している。棟梁の啖呵の切れ味が抜群で爽快、与太郎のボケも独特で「場違いな芋をすごく薄く切って中途半端に焼いて硬くして塩を振って、あれはあれで美味いね」には意表を突かれて爆笑。この喧嘩を描いて「大工調べの序でございます」でサゲ。兼好の演じる与太郎は高い声での語り口がとても可愛く、その与太郎が棟梁の真似をすると男らしい声になる、というのも楽しい。

『へっつい幽霊』は上方言葉の男が「あのへっつい下にとって」と言いに来る場面から。若旦那(「徳さん」で演じていた)と熊さんの掛け合いの楽しさは兼好ならでは。若旦那が気持ちいいくらいに軽薄で素敵だ。出てきた幽霊が熊さんの威勢の良さに気圧される様子も実に可笑しい。幽霊が怪談口調で「わたくしが…毎晩出てくるのには…わけがありまして…あれは…」と打ち明け話を始めたのを「普通に喋れ!」と一喝したのは『お化け長屋』の二人目の男に通じるものがある。賭けに負けて思わず頭を抱える幽霊に熊さんが「手が上がったじゃねえか!」とツッコミを入れて笑いを呼ぶのは“盛り上げて終わる”見事な演出だ。サゲは「足は出さねえ」。軽やかな語り口に引き込まれた。


次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

※S亭 産経落語ガイドの公式Twitterはこちら※
https://twitter.com/sankeirakugo