広瀬和生の「この落語を観た!」vol.101

11月23日(水・祝)
「一之輔のドッサりまわるぜ!2022ツアーファイナル」

@よみうりホール


広瀬和生「この落語を観た!」
11月23日の演目はこちら。

春風亭一之輔(オープニングトーク)
春風亭一花『駆け込み寺』
春風亭一之輔『味噌蔵』
~仲入り~
春風亭一之輔『うどんや』

毎年恒例の全国ツアー、ファイナルは東京・有楽町のよみうりホールで。私服での立ち姿でだらだら喋るユルいオープニングトークはこのツアーならではの楽しみ。旬の話題のサッカーも一之輔の手に掛かるとバカバカしさ全開の爆笑ネタになる。この日がNHK新人落語大賞の放映日で、その話題も。

一花が演じた『駆け込み寺』は江戸時代に鎌倉の東慶寺という尼寺が離縁したい女が駆け込むと匿ってくれて三年後に離縁が成立する“縁切り寺”“駆け込み寺”として知られていた、という史実に基づく噺で、一門の大師匠・五代目春風亭柳朝の演目。

喧嘩をしては仲直りを繰り返している夫婦。ある朝、喧嘩の挙句に女房が「いざ鎌倉って時には行くところがある」と言い残して出て行った。すぐに帰ってくると思っていた亭主、なかなか戻らないので心配になり、大家に「女房が鎌倉がどうとか言って出て行った」と相談すると「鎌倉の東慶寺に駆け込むつもりだろう」と言うので慌てて鎌倉へ。だが女房は上方の商用から帰っていた兄の家に行っていただけで、戻ってきて亭主がいないので大慌て。近所のおかみさん連中に「鎌倉とか口走って旅支度で出かけたよ」「鎌倉って縁切り寺があるんだろ」と言われて鎌倉の東慶寺に行くと、門番に「女房が駆け込んだ」と泣きついている亭主を発見。二人は抱き合って「お前が居なきゃダメなんだ」「私もお前さんがいなきゃダメなんだよ」とイチャつき始め、「朝飯も食わないで鎌倉まで来たから腹が減ったなあ」などと言っているので、門番が呆れて「お前たち、寺に掛け込まずに茶店で茶漬けでもかっこめ」でサゲ。滅多に聞くことのない珍しい演目だ。大師匠が手掛けていたレアな噺を自分の持ちネタにしようという一花の了見にアッパレ!

一之輔の一席目は「三昼夜」で『諸般の事情』という一席にカウントされた爆笑ダブルブッキング漫談から、2週間前の「真一文字の会」でも聴いた『味噌蔵』へ。ケチな主人の留守に好きなものを食べようと番頭と奉公人たちが相談する場面を独自の演出で思いっきり膨らませたことによって『味噌蔵』は一之輔ならではの爆笑編になった。番頭が語る“カツ煮の思い出”に代表される“創作力”こそ一之輔の真骨頂。豆腐屋を“から屋”だと思い込んで生きてきた峰どんの悲劇は、豆腐屋の主人や小僧が峰どんに同情して「うちは“から屋”です」と言ってあげていたばかりでなく、いい仲のおみっちゃん(豆腐屋の娘)にも「うちは“から屋”よ」と言われていたという衝撃の事実が明かされるまでに膨らんでいた。江戸の寒い夜に響き渡る「ラ・マルセイエーズ」。これぞ江戸の風(笑)。

二席目は『うどんや』。『味噌蔵』に続いて、これも冬の噺だ。マクラで語ったのは高校3年の修学旅行のエピソード。一之輔は埼玉県立春日部高校出身で、「男子校だったから修学旅行なんか面白くもなんともない。行った記憶もほとんど無い」と言う一之輔に、同じ埼玉県立の男子校である川越高校出身の僕は心の底から共感した。そんな一之輔が唯一覚えているのは、グループ行動で応援団のモチヅキ君が「京都へ来たらうどんだろう」と言うので皆でうどん屋に行ったら当のモチヅキ君は「俺は江戸っ子だから」と(栗橋の生まれなのに)蕎麦を注文、知ったかぶりであれこれ粋がった挙句に蕎麦湯をもらおうとしてお店の人に「あらへん!」と一喝されたという愉快な思い出(笑)。一之輔の『うどんや』は仕立て屋の一人娘の婚礼の帰りだという酔っぱらいの件が独特なのでいつも新鮮に楽しめる。「勘弁してください」と謝るうどん屋に「謝るなよ……酔って理屈を言って悪かった」と反省した酔っ払いが「カカァみたいにガッと叱ってくれよ、ガッと」としつこく言うので「ガッ!」と言うと間髪入れずに「うるせえよ!」と返す、という繰り返しの可笑しさは今日のアドリブかも。仕立て屋の娘みいちゃんに「好き嫌い言わずになんでも食べなきゃダメ」と説教したと自慢する酔っぱらいが「うどんは嫌いだから食わない」と言う矛盾を指摘するうどん屋が素敵だ。裏通りでの売り声から表通りに出てからの売り声がひと調子高くなる芸の細かさにも感心。うどんの食べ方には麺の太さが見事に表現されている。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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