広瀬和生の「この落語を観た!」vol.78

10月21日(金)
「集まれ!信楽村」@ばばん場


広瀬和生「この落語を観た!」
10月21日(金)の演目はこちら。

柳亭信楽『権助提灯』
柳亭信楽『密猟者』
~仲入り~
柳亭信楽『締め込み』

『権助提灯』は妾宅と自宅を虚しく往復する旦那が双方からどんどんキツい言い方をされるようになる可笑しさにスポットを当てた演出。たった一往復で「両方から嫌われてる」と権助に見透かされるのは笑った。『締め込み』は女房が饒舌にまくし立てる可笑しさをきちんと表現している。信楽は新作の面白さが突出しているので、ついついそっちにばかり注目してしまうが、二ツ目でここまできちんと古典を語れる“基礎力”も真っ当に評価されるべきだろう。信楽の新作の面白さは、人物を描く卓越した演技力と良い声に裏打ちされたもので、それは古典にも活かされている。

新作落語『密猟者』はジャングルの奥地に密漁をしに行く男たちを描いた噺。一攫千金を企む彼らが狙っているのは象でもなければサイでもなく、もっと高額で取引される、ある意外な“超大物”。まだ聴いたことのない人が初めてこの噺に出会った時の衝撃を奪いたくないので、ここではその正体は明かさずにおくが、“それ”がジャングルの奥地に野生で生息しているという信楽の発想が尋常ではない。最初にそのワードが出てきた瞬間からラストまで爆笑の連続だ。「何を捕獲するのか」という選択肢が無数に存在する中で、“それ”を選んだ信楽のセンスはまさしく天才としか言いようがない。そのワードの語感の可笑しさと、出オチのようなそのアイディアを落語として見事に広げていく創作力に、ただただ感服する傑作だ。


次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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