広瀬和生の「この落語を観た!」vol.61

9月13日(火)
「白酒・兼好二人会」@北とぴあつつじホール


広瀬和生「この落語を観た!」
9月13日(火)の演目はこちら。

柳家ひろ馬『平林』
桃月庵白酒『短命』
三遊亭兼好『岸柳島』
~仲入り~
三遊亭兼好『一眼国』
桃月庵白酒『今戸の狐』

白酒の『短命』は伊勢屋の二人目の婿が“ブリのアラ”の五代目圓楽系だが「泣きながら“寿限無”でも言え」と悔やみの文句を授ける隠居は白酒だけ。「夫婦が夜することを昼間っからしてもいいだろ?」と言われてもわからず“おまんま”にこだわる八五郎に苛立った隠居が「手と手が触れる、いい女。どうする? いい女! 布団も付けよう! いい女で布団だよ! どうする!?」と迫ってようやく通じるという可笑しさは、さすが白酒。帰宅してからのやり取りは短めで、女房がわりと普通なので微笑ましい長屋の日常として聴ける。

兼好の『岸柳島』は、地噺かと思うほど地の語りの名調子が心地好く、乗り合わせた町人のオッチョコチョイな楽しさも兼好らしい。特に意外性のある演出を用いることなく真っ当にやって面白い。展開を知っていても語り口に引き込まれる。ある意味、兼好の“落語の上手さ”が凝縮された感がある一席。

兼好の『一眼国』は両国の“もぎ取り”(「目が三つで歯が二本の化け物」「八間の大灯籠」「べな」)や「赤ん坊を食べる“鬼娘”」と見世物小屋の話(両国八景)が冒頭にあり、そこから香具師が六十六部に「何か珍しいものを見たことはないか」と尋ねる場面に入っていく八代目正蔵系。ただし兼好はこの香具師と六十六部はもともと同じ町内の人間で、旅に出て戻ってきた六十六部と話をしている設定。不在の間は香具師がこの六十六部の老父の面倒を見ていたという。心当たりがないと言う六十六部に「何年か前に帰ってきた時にガタガタ震えてたけど、何か怖い目に遭ったんだろ?」と迫り、「そこまで言われるのでしたら」と“一つ目”に遭った話をする。これは兼好オリジナルだ。そこから先は正蔵型で、一眼国は“江戸から北に百里”、大きな原の真ん中に一本の榎の樹、そこへ女の子が「おじちゃん、おじちゃん」と声を……という展開。

『今戸の狐』は古今亭のお家芸で、白酒はよく高座に掛けている。江戸の三笑亭可楽の家で金勘定をしているのを町内のヤクザ者が「博奕をしている」と勘違いして「いくらか金を回せ」と可楽を脅すところからさらに勘違いを呼んでいく噺で、その金勘定を志ん朝は「寄席のあがりをトリの可楽のところに集めてワリを作る」作業として演じたが、白酒は馬生がやっていたとおり「前座が寄席の仲入りでクジを売った金を勘定している」という設定。この「前座のクジ」や、今戸焼のキツネの彩色をしている良助(可楽の弟子)と勘違いしたヤクザ者とのスレ違いの会話に関わる符丁など、いろんな仕込みが必要な噺だが、白酒はそれらの説明自体がとても楽しい。今戸焼の内職は、志ん生や馬生は「良助がやっていたのを裏の小間物屋の女房が『私もやりたい』と言い出す」ことにしていたが、志ん朝は「裏の小間物屋の女房に良助が内職を教わる」設定に変えていて、白酒もそのやり方。ラストのすれ違いが何度聴いても可笑しいのは、白酒の『付き馬』の妓夫と早桶屋の会話にも通じるが、それはひとえに白酒の表情と声の使い方の妙によるもの。兼好も白酒も、噺家が「どう演じるか」が落語という話芸の肝だということをつくづく感じさせてくれる稀有な演者だ。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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