広瀬和生の「この落語を観た!」vol.79

10月23日(日)
「鈴々舎馬るこ勉強会 爆裂ドーン!#50」
(しもきたドーンで10月4日に行なわれた会での馬るこの高座をVimeoレンタルで視聴)


広瀬和生「この落語を観た!」
10月23日(日)の演目はこちら。

鈴々舎馬るこ『寝床』
鈴々舎馬るこ『子別れ』

長屋の人々が“義太夫に行けないお詫びのしるし”として旦那の大好物のおはぎを渡し続けるので旦那の許に百個のおはぎが届く『寝床』。ある大名が百姓一揆を鎮圧するためにこの旦那の義太夫の殺人的威力を利用、それ以来この旦那はプロとして自信を深めたのだという。旦那の機嫌を直すために渋々集まった人々に義太夫を聴かせる場面の前に地の語りで「音が人体に及ぼす影響」についての薀蓄を披露、「ロシアに隕石が落ちたツングース大爆発の衝撃が地球最高の騒音で300デシベルなのに対し、旦那の義太夫はなんと750デシベル」と説明するのも馬るこならでは。この“音響兵器”とも言うべき義太夫に奉公人たちが「助けてーっ!」と叫ぶのを聞いた旦那が「お前たちは『どうする、どうする』と声を掛けてサクラにならなきゃいけないのに、断末魔の咆哮をあげるとはなんだ!」と怒ると「ええ、私どもは奉公(咆哮)人です」でサゲ。このサゲを思いついたので久々に『寝床』を高座に掛けたのだという。

『子別れ』は、女房と子供が出ていって吉原の女を引っ張り込んだが逃げられたという経緯を地で語ってから、番頭と出かける場面へ。この大工は酒癖が悪く、タチの悪い絡み酒。女房おみつと息子の亀吉が出ていって三年後、「棟梁、お前さんは今は酒をやめて評判もいいし、稼ぎもある。おかみさんとよりを戻したらどうだ」とお店の番頭に言われると「私、お酒やめてないんですよ」と意外な告白。おみつや亀吉にも毎晩ネチネチと絡んでいたのを後悔して、半年は酒をやめてみたものの、やっぱり酒はやめられず再び飲み始めたが、外で飲まずに家で独りで飲んでるので誰にも絡まないから評判がいいだけなのだという。

息子と再会した父は、出ていくときにおみつが「人間のクズ!」と言ったときの憎々しげな顔が忘れられず、「まだ酒はやめてないから一緒に暮らすわけにはいかないけど、今は稼ぎがあるから月々まとまった金を渡す」と提案、翌日に鰻を食べる約束をする。この再会シーンで「今の亀吉は屑拾いをして小銭を稼いでいる」という設定が加わっているのが馬るこらしい。別れた亭主と亀吉が会ったのを知ったおみつは「あんな人間のクズと会っちゃダメ!」と怒るが、亀吉が「実は……」と今の父について何ごとかを耳打ちすると、おみつ機嫌を直し、鰻屋の二階で夫婦は再会。ここからの意外な展開のバカバカしさは馬るこならでは。サゲも「子は夫婦の鎹」に掛けてはいるが、まったく違う意味。この“意外な真相”、ここでのネタバレは避けておくが、「こんな『子別れ』は馬るこしかあり得ない」という驚愕の演出だ。


次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

※S亭 産経落語ガイドの公式Twitterはこちら※
https://twitter.com/sankeirakugo