広瀬和生の「この落語を観た!」vol.6                   

7月2日(土)
「らくごDE全国ツアー VOL.10 春風亭一之輔のドッサりまわるぜ2022」@よみうりホール


7月2日の演目はこちら。

春風亭与いち『金明竹』
春風亭一之輔『加賀の千代』『反対車』『百年目』

6/3亀有で幕を切った今年の一之輔全国ツアー、9公演目。立ち姿での一之輔のオープニングトークに続き、二番弟子の与いちが登場。『金明竹』は松公とおかみさんの描き方に独特の楽しさが漂い、新鮮に聴けた。

一之輔十八番『加賀の千代』、今日も甚兵衛さんは絶好調。隠居の家へ向かいながらの「俺は世帯主だぞ!」に、今日は「昔は可愛かったぞ」が加わった。

一席目を終えた一之輔、そのまま高座に残って『魔女の宅急便』について熱く語る長いマクラで爆笑を呼ぶ。この“自由に語る”一之輔のマクラの楽しさは今やファンにとっては欠かせない“お楽しみ”。『魔女の宅急便』を語ってここまで笑わせてくれる語り手は他にはいない。紛れもなくマクラが“芸”になっている。

そこから入っていったのは、遅い車夫しか出てこない斬新な演出の『反対車』。爺さん車夫の押しつけがましい「あー、かしこまりました」連発は今回が初。この爺さんの可笑しさが進化して、もはや従来の『反対車』とはまったく別モノの爆笑編となっていた。40年を代用教員として勤務、定年後は学校の用務員を務めていたお爺さんが可愛い孫娘のチーちゃんにいいところを見せたくて50年ぶりに車屋を始めた……という身の上話に混じる“鬼嫁”エピソードが一層パワーアップしていた。

仲入り後は『百年目』。前座の頃の実体験エピソードを語るマクラでさりげなく「ここで会ったが百年目」という言葉を使っていたのはいいアイディアだ。向島の花見の様子を屋形船から覗き見る場面から鳴り物が入ってお花見気分を盛り上げる。(「船を降りて追いかけっこをする場面から」ではないのが面白い)

翌朝の場面、旦那の描き方が実に気持ちいい。旦那が一晩中眠れなかったのは、帳面を改め穴が空いていないことを確かめた後、小僧だった頃の治兵衛を知らない婆さんに昔の思い出話をしていたから、という演出は秀逸だ。その昔話の工夫も見事で、小僧仲間で仲が悪かった松吉とのエピソードが胸を打つ。「お前さんに頼りっきりだった私が一番よくない」と、来年には必ず店を持たせると約束した旦那の、「来年の花見は前祝いに皆で派手にやろう。昨日の皆さんも呼んで、私も揃いの長襦袢で」という語り口の温かさは一之輔ならでは。聴き応え満点、笑いも交えて清々しい余韻を残す見事な『百年目』だ。

ハジケまくって爆笑させた前半、大ネタで感動を呼んだ後半。このコントラストこそが一之輔の魅力だ。器の大きさをまざまざと見せつけた最高の独演会だった。


次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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