広瀬和生「この落語を観た!」vol.20

7月18日(月・祝)
「桂二葉ひとり会」@人形町社会教育会館

広瀬和生「この落語を観た!」
7月18日の演目はこちら。

桂二葉『真田小僧』『つる』『仔猫』

昨年度NHK新人落語大賞受賞者の桂二葉が今年になって東京で始めた独演会、これが2回目。『真田小僧』はマセた言葉遣いで息子が父親を翻弄する可笑しさが肝となる噺だが、東京だと「こんな子供いるかい」というギャップの可笑しさになるのに対し、上方言葉だと妙にリアリティがある。二葉は、甲高い声のハジケたキャラの息子と押さえた声の父とのメリハリが見事。最後に登場する母の落ち着いた物腰も説得力がある。

二葉の『つる』は“首長鳥がつるになったわけ”を隠居から聞いた男が、それを町内に広めに行こうとすると、隠居が慌てて「嘘や、嘘や」と止めるが、男は「今さら嘘や言うたかて手遅れや」と、制止を振り切って出ていくという演出。桂枝雀が「嘘や」と引き止める相手に「わかってます、誰がホンマやと思うかい」と言い捨てて出て行くのと似た演出だが、二葉はさらに「あの隠居はんって人は平生から高慢で、偉そうなこと言いやがって」と隠居への反感を剥き出しにするのが面白く、更にその嘘を使って日頃から自分を馬鹿にしている男をビックリさせてやろうとして失敗するというバカバカしさが素敵だ。『真田小僧』もそうだが、二葉の滑稽噺は演者が女性であることを忘れさせる“純然たる面白さ”に満ちているのが素晴らしい。昨年のNHKの決勝の時もそう感じたものだった。

『真田小僧』『つる』は東京でもおなじみの噺だが、3席目に演じた『仔猫』(ネタ出し)は純然たる上方落語で、東京では聞いたことがない。船場の問屋に奉公する女中おなべが夜中に店を抜け出しているので、番頭がおなべが出かけている隙に持ち物を改めると、そこには血のついた毛皮が何枚も……という展開は怪談じみていて、実際おなべの告白もそのまま怪談として終わらせることが可能なものだが、おなべの告白を聞いた番頭の対応がカラッとしていて、落語らしく終わらせているのが良い。枝雀が『仔猫』について「怪談にはしたくない」という芸談を残していると聞くが、二葉の明るい個性はまさしくそうしたアプローチにうってつけ。後味すっきりと聴くことが出来た。二葉の“腕の確かさ”を見せつけた一席だった。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

※S亭 産経落語ガイドの公式Twitterはこちら※
https://twitter.com/sankeirakugo