広瀬和生の「この落語を観た!」Vol.136

5月26日(金)「まるらくご爆裂ドーン! 第57回」(アーカイブ視聴)


広瀬和生「この落語を観た!」
5月26日(金)の演目はこちら。

鈴々舎美馬『ナースコール』
鈴々舎馬るこ『看板のピン』
鈴々舎馬るこ『魔法世界のたらちね』
~仲入り~
ホンキートンク(漫才)
鈴々舎馬るこ『阿武松』

11月に二ツ目昇進が決まっている美馬が演じた『ナースコール』は三遊亭白鳥作品だが、原作とは異なる演出が施されている。先輩ナースが新入りのチャラくてヤバい女の子(「愛」と書いて「ラブ」と読むキラキラネーム)に説教して「ナースの洗礼」を与えようとするものの、ラブは意外に仕事ができて頭が良くて妙に知識が豊富なので先輩ナースがタジタジとなる……という設定。白鳥がボケとして投入した「目盛りのついた紙コップ」「メンソレータムの蓋」等が、ここでは別の意味を持つ。会話を重ねるうちにラブの心に潜む闇が見えてきて、先輩ナースが恐れを抱き始めたところでセクハラ爺さんのナースコールが入るという展開で、爺さんも“黒い看護婦”の本性を持つサイコパスなラブに手痛い反撃を受ける。このオリジナル演出は令和の時代に相応しく、美馬が創作した『エステサロン』のテイストにも通じるものがある。二ツ目昇進後の活躍が期待できそうだ。

『魔法世界のたらちね』は、以前は『闇のたらちね』と呼ばれていた噺。独身男にアパートの大家が持って来た縁談は、20歳で美しくて実家が裕福な女性が彼に一目惚れしたので結婚しろ、という話。話がうますぎて怪しんだ男は大家を問い詰めると、彼女はファンタジー世界に住んでいて、自分は魔族の末裔フェンネルで魔法が使えて右手には世界を破滅に導くブラックドラゴンを封じ込んでいると信じているという。いざ結婚すると、彼女は男を悪魔ベルゼブブと呼び始めて……という『たらちね』の改作。

今回の『阿武松』は、最近Netflixで「サンクチュアリ -聖域-」を一気に全話観て完全にハマったという馬るこが、その影響をモロに持ち込んだ“スポ根”演出。武隈部屋でシゴキまくられ酷い追い出され方をした長吉が旅籠の主人の世話で錣山部屋に入門し、稽古に励んで因縁のある過去の兄弟子や師匠の武隈を倒して出世していく。随所に「サンクチュアリ」風の描写が入りつつ、ラジオの取材で実際に阿武松部屋に体験入門したことがある馬るこが“相撲部屋の稽古のリアル”を語るのが楽しい。横綱となった阿武松は引退して四股名のまま年寄となった経緯を地の語りで(阿武町の誤送金事件を交えつつ)説明した後、最後は晩年の阿武松が弟子に「この世で一番美味い食い物はこれだ」と白い握り飯を差し出して「相撲取りは結びが一番だ」でサゲ。脱線が楽しい馬るこらしい一席だった。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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