広瀬和生の「この落語を観た!」Vol.131

4月8日(土)13時開演「けんこう一番!春スペシャル 第24回三遊亭兼好独演会」@よみうり大手町ホール


広瀬和生「この落語を観た!」
4月8日(土)昼の演目はこちら。

「けんこう一番!春スペシャル 第24回三遊亭兼好独演会」


三遊亭兼好『宮戸川』
三遊亭けろよん『狸札』
三遊亭兼好『片棒』
~仲入り~
田ノ岡三郎&Reina Kitada(ヴァイオリンと歌)
三遊亭兼好『文違い』

『宮戸川』は“半七とお花はデキてる”という噂を「自分で流した」と言い、下駄を脱いで懐に入れて疾走するお花の自由なキャラが可愛い。戸口の外のお花を発見して無言で“呑みこんだ”という表情になって「まとめてやる」と言う霊岸島の叔父さん、というくだりの顔芸も見事。二階に上がった二人の描写は地の語りで進み、「お花の万年雪のように白い足に半七の手が……」と色っぽくなったところで「お時間です」とサゲる。

『片棒』は三日がかりの弔いを出すという長男が提案する葬儀会場は武道館、23人のお坊さんを呼んで食事はビュッフェ形式+豪華弁当、お車代付きで返礼品に金の延べ棒。木遣りで始まり芸者が続く粋で鯔背で色っぽい弔いの次男のくだりでは兼好の良い喉が存分に活躍、山車の人形の動きも楽しく、弔辞の後は50発の花火と子供たちの鼓笛隊とお母さんたちのチアガール、飛行機が「欲しがりません勝つまでは」と書かれた紙吹雪を撒いたあと、煙で「さ・よ・う・な・ら」と描いて去っていく。三男は通夜で“余っている塩煎餅と茶”を出して蔵を整理、遺体は“裸で引きずっていく”もしくは“吊るして鳥葬”を提案するが父が渋るので「意外と贅沢ですね」と言いつつ菜漬けの樽に入れることに。

『文違い』は日向屋の半七とお杉の会話からではなく、田舎者の角蔵がお杉を呼ぶところから始まり、角蔵はお杉からの“二十両が必要”という手紙を受け取って来ている設定。十五両を受け取って出ていく際に「お前が色男だってことは他のお客には内緒だよ」と釘を刺したお杉は、半七の待つ部屋に行き「手紙を読んだね? あと五両おくれ」と言う。普通は半七→角蔵→半七となるが、兼好が演じた角蔵→半七という流れの方がすっきりしている。色悪の芳次郎の苦み走った感じと、その魅力にメロメロになっているお杉が見事に表現され、二人のやり取りに引き込まれる。お杉と半七の喧嘩を聞いて若い衆を呼ぶ角蔵の気持ちいい間抜けっぷりがサゲの台詞を際立たせるのも効果的。通常の演出だと半七はお杉が「前に二十両が必要と話した」ので来ており、角蔵はこの日初めて「二十両が必要」と聞かされるのだが、兼好は二人とも「手紙を受け取って」いるということにしていて、この噺の『文違い』という演題に一層相応しい。聞き応え満点の逸品だ。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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