広瀬和生「この落語を観た!」vol.28

7月26日(火)
「鈴々舎馬るこ勉強会“まるらくご爆裂ドーン!”第48回」@しもきたドーン
(配信で視聴)

広瀬和生「この落語を観た!」
7月26日の演目はこちら。

鈴々舎美馬『金明竹』
鈴々舎馬るこ『相続登記』
~仲入り~
鈴々舎馬るこ『ゴミだらけの竜宮城』
鈴々舎馬るこ『提灯屋』

美馬が演じた『金明竹』は随所に独特な演出を施した馬るこの型を教わったものだろう。加賀屋佐吉の使いの上方言葉の男が去った後に帰宅した店の主人が奥さんの聞き取れた言葉から「弥市が吉原で夫婦約束をした遊女に裏切られて逆上して斬り殺し、兵庫に逐電してお坊さんと愛し合い、抱き合って井戸に飛び込み心中をした」ということだと合点するというもの。上方言葉の男は「わざとだろう」というくらい物凄い早口で、聞き取らせようという意志が皆無なのが妙に可笑しい。目の前に猫がいるのに「猫は貸せません、お気の毒さま」と言う松公の態度に相手が「いらねえよ、バーカ!」と言い捨て「バカって言うほうがバカだぞバーカ!」と喧嘩になるくだりもバカバカしくて好きだ。

噺を5席しか覚えず入門から2年11ヵ月で二ツ目になった頃のダメな自分を赤裸々に語り、最近の“豪華客船での仕事”を振り返り、2ヵ月に一度訪れる栃木の郷土料理“しもつかれ”について語った長いマクラからのの馬るこ一席目『相続登記』は依頼があって作ったという新作。

父が亡くなって秋田の実家を相続した中林君。「広いだけで大したことない。3600万円まで非課税だから大丈夫」と言っていたが、建築家志望の友人が現地でその豪邸を見てみると、内装は超高価な素材ばかりで仰天、国宝級の代物もゴロゴロ。相当な資産価値があって相続税も莫大なものになりそうということで、友人は知人の経営コンサルタント山口を紹介。調べてみると、所有者が曾祖父になっていて、祖父の代まで遡って相続登記をしなければいけないと判明。ここで問題は、生存する総ての親戚に相続放棄の署名をもらわなければいけないこと。これが何と75人分! うち2人はタンザニア在住! 「相続は終わってる」と中林は主張するが、山口は「遺産分割協議書が提出されていなければ法律的に相続が済んでいない」と説く。この「役所の書類至上主義」を山口は「金を払う前に領収書をもらってしまえば金を払わなくても済む」という例え話で理解させる。この難事を山口は解決するが、あの例え話が皮肉なサゲに結びつくことに……。

二席目の『ゴミだらけの竜宮城』は、海洋の環境問題を人々に知ってもらう「海と日本プロジェクト」の一環としての「海の落語プロジェクト」で以前作った噺。亀を助けた男が「御礼におもてなしを」と竜宮城に案内するが、浦島太郎の時代から二千年が経過して乙姫はすっかりお婆さんに。竜宮城はプラスチック等の海洋ゴミで惨憺たる有様……。

三席目の『提灯屋』はフリップを用いた落語。「最近は落語ファンでも想像や知識が追い付かなくてわからない演目がある」と馬るこは言い、「わからなければ絵で見せよう」ということで、『提灯屋』に出てくる提灯各種や数々の判じ物(鐘馗様が大蛇を胴切り、仏壇の地震etc.)と実際の紋(剣片喰み、竜胆くずし等々)を、それぞれ絵と振り仮名つきの文字とで構成されたフリップでわかりやすく見せたのだった。口演の中身自体は普通の『提灯屋』だが、確かにこのやり方は今の観客には親切だ。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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