広瀬和生の「この落語を観た!」Vol.140

6月24日(土)「もっと!新ニッポンの話芸スピンオフ」@内幸町ホール


広瀬和生「この落語を観た!」
6月24日(土)の演目はこちら。

鈴々舎馬るこ『馬のす』
柳亭信楽『出生の秘密』『密猟者』
~仲入り~
立川こしら『千早ふる』

「広瀬和生プロデュース 立川こしら・鈴々舎馬るこ・三遊亭萬橘 新ニッポンの話芸」は、成城ホールで2011年から2012年にかけて行なわれた「立川こしら・春風亭一之輔 ニッポンの話芸」の後継企画として2012年にスタートした定例会(その時点で真打だったのはこしらだけで、萬橘は当初「きつつき」と名乗っていた) 一時期北沢タウンホールに場所を移し、2017年に成城ホールに戻って2019年1月まで行なわれたが、会場の都合で終了。場所を内幸町ホールに移し不定期開催となった「もっと!新ニッポンの話芸」は2019年4月に第1回、7月に第2回が行なわれたが、コロナ禍で第3回の開催は2021年6月まで待たなければならず、2022年7月に行なわれた第4回「もっと新ニッポンの話芸」を最後に萬橘が卒業することになったのを機に「こしら・馬るこ」にゲストを加えた形での三人会「もっと!新ニッポンの話芸スピンオフ」がスタート。第1回は2022年10月に大須演芸場でゲストに旭堂鱗林を迎えて開催され、第2回は内幸町ホールに戻って柳亭信楽をゲストに迎えての開催となった。

馬るこの『馬のす』は現代版の改作。趣味の釣りを満喫すべく離島に移住してリモートワークしているデザイナーが主人公で、良い天気なので釣りに行こうとしたところ釣り糸がなく、ちょうど家の前に地元民が馬を繋いだので、尻尾の毛を抜いてテグス代わりにしようとする、という設定。そこへやって来た熊さんが「馬の尻尾を抜くと大変なことになる。教えるから酒を呑ませろ」と言って、枝豆と酒(獺祭二割三分!)を御馳走される。熊さんが余計な話ばかりして、呑み終わるまで教えてくれないというのは通常の『馬のす』と同じ。「余計なことが言いたくて落語をやる」馬るこには打ってつけの噺で、今回も次々に繰り出される“どうでもいい話”が実に面白く、寄席では言えない落語界の危ない話題も満載。

持ち時間が30分あるので、信楽には新作を二席続けてやってもらった。一席目の『出生の秘密』は、ある企業の会長に死期が迫り、社長である息子は全財産の入った金庫を解錠する番号を教えてもらいたいのだが……という噺。どこでやっても必ず爆笑を呼ぶ鉄板ネタ。二席目の『密猟者』は出オチのようなトリッキーなアイディアを最後まで引っ張って飽きさせないのが凄い。どちらも「バカバカしい台詞を良い声で熱演する」信楽の“演者”としての稀有な才能が発想の秀逸さを何倍にも膨らませる傑作だ。誰にも真似のできない唯一無二の世界を創り上げている信楽は、もっともっと広く認知されるべき逸材だと思う。

こしらの『千早ふる』はご隠居が通常の『千早ふる』の“歌のわけ”を教えるのが仕込み。数日後、八五郎が再び隠居の家を訪ね、「竜田川は相撲取り」ということしか覚えてないのでもう一度教えてくれとせがむと、隠居は“ちはや”は噺家の亭号だと言って、まったく違う“歌のわけ”を教える。数日後、また八五郎が隠居を訪ねて「竜田川は相撲取り」以外を忘れたと言うと、隠居はおもむろに「あたりは血の海だ」と不穏なナレーションを始め、竜田川絡みの事件が“歌のわけ”だと説明する。数日後、また八五郎が隠居を訪ねると、隠居は「ちは家ふるか」という落語家とその贔屓客との会話を演じ始め……。隠居の強引な創作力で壮大な純愛ロマンに着地する“歌のわけ”。こしらならではの“クサい恋愛劇”のバカバカしいまでのくすぐったさが堪らない。サゲも見事だ。

馬るこ、信楽、こしらと、それそれが唯一無二の“独自の世界”を披露する素敵な三人会となった。次回の「もっと!新ニッポンの話芸スピンオフ」も既に決定している。次のゲストも唯一無二の存在。乞う御期待!

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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