広瀬和生の「この落語を観た!」Vol.1

6月27日(月)
「第27回代官山落語夜咄 三遊亭兼好ひとり会『陸奥間違い』 Produced by 広瀬和生」@晴れたら空に豆まいて


6月27日の演目はこちら。

三遊亭兼好『陸奥間違い』
兼好×広瀬(対談)

今回ネタ出しした『陸奥間違い』は「浪曲の演目を落語に」という企画で兼好が落語化したものだ。

江戸幕府直参で三十俵扶持の貧乏小役人、穴山小左衛門。月末までに入用の三十両の工面がつかず、かつての同僚で今は三百石扶持に出世した松野陸奥守に借金しようと手紙を書き、田舎育ちの権助に託すが、行き先がわからなくなった権助が床屋にいた物知りのご隠居に手紙を見てもらうと、目上の相手への手紙の礼法である闕字(苗字の一字を伏せること)で宛名が「松 陸奥守」となっている。それをご隠居は「松野」ではなく「松平陸奥守」即ち六十三万石の大大名、仙台の伊達公と読み解いた。

権助は素直に伊達の江戸屋敷に手紙を届けた。見知らぬ小役人、外様とは仲の悪い直参からいきなり借金を申し込まれた伊達公は驚くが、「伊達を大名の中の大名と見込んでのこと」と鷹揚に受け止め「三十両とは三千両の間違いであろう」と権助に酒肴で接待して帰す。

権助がよりによって外様の大大名に手紙を届けたと知って穴山は愕然。そんな間違いを犯したとは切腹ものと慌てる。やがて伊達の使者が三千両を持参、穴山は過ちだと詫びるが使者も殿の命に逆らえば切腹もの。困り果てた穴山は、旧知の仲で知恵者の森川伊豆守の指示を仰ごうと権助に手紙を託すが、権助は“知恵伊豆”として知られる幕府の重鎮、松平伊豆守に手紙を届けてしまう。

相手が伊達とは事が大きいと知恵伊豆は将軍(徳川家綱)に裁断を仰ぐ。家綱は伊豆守の意見を訊ね、「穴山は金を受け取り、幕府から伊達に褒美を与える」ことに。「このような間違いが起きぬよう、これから“陸奥守”を名乗ることは伊達家のみ許されることとする」という幕府の沙汰に伊達公は大喜び。早速宴会を開き、事の成り行きに茫然とする穴山を権助や隠居ともども宴席に招いたのだった……。

講談では『三方目出鯛』というこの噺、浪曲では「知恵伊豆の機転で二人の侍が切腹を免れた」人情噺として泣かせるが、事の本質は「粗忽な使者の間違いがとんでもない事態を生む」という極めて落語的なもの。その本質を兼好は見事に捉えて“トリネタになる滑稽噺”に仕上げた。ちなみに“伊豆守”間違いのくだりは浪曲や講談にはない兼好の創作で、この展開が噺の面白さを数段上に引き上げている。見事な創作だ。物語の組み立ての絶妙さに加え、登場人物たちのリアクションの可笑しさも兼好ならでは。逸品だ。


次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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