広瀬和生の「この落語を観た!」vol.65

9月27日(火)
「一之輔・天どん ふたりがかりの会 新作ねたのーと・01」@座・高円寺2


広瀬和生「この落語を観た!」
9月27日(火)の演目はこちら。

三遊亭ごはんつぶ『悋気のかかりつけ医』
春風亭一之輔・三遊亭天どん(説明トーク)
三遊亭天どん『子どもの作文』
春風亭一之輔『隣の店』
~仲入り~
春風亭一之輔『のめる』
三遊亭天どん『くるしゅうない、よきにはからえ』
春風亭一之輔・三遊亭天どん(アフタートーク)

以前「新作江戸噺十二ヵ月」と称して江戸を舞台に月々の噺を作ることを課題とした「ふたりがかりの会」が、新たに「新作ねたのーと」としてスタート。第1回の課題は「お互いが考えたタイトルから新作をつくる」というもので、一之輔と天どんが公演の1ヵ月前にそれぞれ相手に新作落語のタイトルを3つずつ提出、その中で1つ選んで噺を作るというもの。

一之輔が天どんに渡したタイトルは「最終回のあと」「古い時計」「くるしゅうない、よきにはからえ」の3つ。天どんが一之輔に渡したのは「覚えてます」「隣の店」「届くかな」。それらの中から選んで創作した噺のネタおろしの他にもう一席ずつ演じるというプログラムで、今回の趣旨を説明するトークの後、まずは天どんが従来の持ちネタ『子どもの作文』を。学校の宿題に「作文」を出された子どもが新作落語家である父にアドバイスを求め、それを基に書かれた我が子の作文を授業参観で父が聞く、という噺。

一之輔が3つのタイトルから選んだのは『隣の店』。タウン誌「わくわく沼袋」の記者が商店会の会長を訪ねて取材するが、記者が聞くのは会長が営む布団店のことでも商店街全体のことでもなく、ただひたすら隣のラーメン屋のことばかり。商店街でも新顔のこのラーメン屋は汁なし担々麺が若者に人気の「行列のできる店」で、取材を断られたタウン誌の記者は仕方なく「隣の店」に話を聞きに来た、というもの。無神経で失礼な記者の態度にイラついた会長が「隣にあんな店があって迷惑だ」と愚痴り始め、それがどんどんエスカレートしていく描写が最高に可笑しい。“商店街もの”という志の輔らくご風シチュエーションで一之輔のキャラが暴走していく傑作だ。アフタートークで天どんが「志の輔師匠にお前(一之輔)の汚れが入ったみたいな噺」と言っていた(笑)。

天どんが選んだタイトルは『くるしゅうない、よきにはからえ』。これは一之輔の口癖なのだという。天どんが作ったのはサラリーマンもので、かつて世話になった先輩をあっという間に追い抜いて遥か上の立場に出世した川上が、高野とその後輩の岸との飲みに加わって、「尊敬する高野先輩」に失礼な岸にキレて説教する噺。尊敬してると言いながらちょいちょい高野をディスる川上、という構図が天どんらしくて楽しい。高野は天どんの、川上は一之輔の、岸はごはんつぶの本名で、一之輔がタウン誌の記者の名を「高野」にしたので急遽こうしたのだという。ちなみに『隣の店』で布団店を営む会長の名は「漆畑」で、これは実家が布団店だった春風亭朝之助(一之輔の弟弟子)の本名。

アフタートークで天どんは「新作は熱いうちに打て」と言い、『くるしゅうない、よきにはからえ』をすぐ寄席に掛けると宣言したが、『隣の店』も実に一之輔らしい噺で、やり続ければ間違いなく進化するはず。また聴きたいので、どんどん高座に掛けてほしい。


次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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