広瀬和生の「この落語を観た!」vol.59

9月8日(木)
「三遊亭萬橘独演会」@ゆにおん食堂


広瀬和生「この落語を観た!」
9月8日(木)の演目はこちら。

三遊亭萬橘『たいこ腹』
三遊亭萬橘『酢豆腐』
~仲入り~
三遊亭萬橘『ぼんぼん唄』

萬橘の『たいこ腹』は若旦那が鍼を打ちたい相手が自分だとわかった後の一八の、「1万円に羽織を付ける」という言葉に釣られつつやっぱり怖いという葛藤を延々と描き、これが実に可笑しい。若旦那と一八のバカバカしいやり取りは他の演者の『たいこ腹』には無いものばかり。若旦那と一八の攻防に笑った。

『酢豆腐』で「若い連中が自分の家に帰らず兄貴分の家でわけもなくゴロゴロしてる」というのは先代馬生に通じるが、この兄貴分の家がすごく狭くて「この暑いのにギュウギュウで鬱陶しいから帰れ!」と兄貴分が何度も言ってるのに誰も帰らない、という状況は萬橘オリジナル。この状況がまず可笑しい。暑気払いに一杯やろうということになると「爪楊枝」「古漬け」の件は抜いて「腐った豆腐を通りがかりのキザな若旦那に食べさせる」というスピーディーな展開で、腐った豆腐は「お上から親孝行のご褒美としてもらった物」という触れ込みで若旦那に提供する。「暇な若い連中が嫌味な若旦那をからかって遊ぶ」という点にスポットを当てる演出だ。

『ぼんぼん唄』は、子が欲しくても出来ない小間物屋の夫婦が、迷子となっていた幼女を引き取って育てる人情噺。神様からの授かりものだと我が子のように慈しんで育てるが、ある夏、ひょんなことからこの女の子の実家がどの町内かがわかり、「実の親はどんなに心配しているだろう」と小間物屋はその町内を訪ね、実家を突き止めると、自分に懐いている女の子を、後ろ髪を引かれながらも実家に返すことに……。

志ん生のレアな演目で、立川談四楼がこれを掘り起こして十八番にしている。萬橘の『ぼんぼん唄』も談四楼からで、そこに独自の演出を加えたもの。冒頭で小間物屋が何気なく女房に語った「お店の子に簪を売った」話がラストの後日談に結びつく趣向は見事。小間物屋夫婦の切ない心情が心に沁みる一席。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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