広瀬和生の「この落語を観た!」Vol.147

8月30日(水)「立川笑二月例独演会」@上野広小路亭


広瀬和生「この落語を観た!」
8月30日(土)の演目はこちら。

立川笑二『すきなひと』
立川笑二『帰り道』
~仲入り~
立川笑二『不動坊』

『すきなひと』は8月11日の渋谷らくご「しゃべっちゃいなよ」でネタおろしした新作。フユキが、自分のマンションの真向いの部屋に昔なじみの友達が住んでいると知って訪ねてみると、そこは明らかに女性が住んでいる部屋。「実は彼女と一緒に住んでいる」と言う友人の言葉の端々が、どこか奇妙。「彼女、俺が一緒に住んでること知らないんだ」 今は留守にしているというその彼女とは、フユキの先輩アヤカだった……。友人が次々に明かす驚愕の事実。そして衝撃のラスト。笑二が得意とする“ヒネリの効いた怖い噺”の新たな傑作。

『帰り道』はネタおろし。道行く女性にあの手この手で片っ端から声をかけまくるナンパ男。やがて一人の女性に「いま、目が合いましたね」と言って、家に帰ろうとしている彼女にあれこれ一方的に話しかけながら付いていく。一方的にしつこく話しまくるこの男、満員の終電にも一緒に乗り、遂には家にまで……。これまたヒネリの効いた噺。古典の改作を得意とする笑二だが、その一方で『わかればなし』『ちむわさわさ』『お義父さん』等に加えて今日の二席で“ブラックな新作を作る人”としての笑二の個性もまた鮮明になってきた。

本来は三席目に『居残り佐平次』をやる予定だったそうだが、笑二の『居残り』は師匠である談笑の型なので、通常とは異なるブラックな終わり方。前の二席がブラックな新作だったので……ということで急遽『不動坊』に変更。『不動坊』はもともと上方落語で、三代目小さんが東京に持ってきた噺。笑二の『不動坊』はお滝さんと夫婦になるのが“金貸しの利吉”で、これは上方落語にある設定だ。

お滝さん大好き三人組が幽霊で利吉を脅かそうとするところまでは通常の流れだが、「四十九日も過ぎぬのに嫁入りするとは恨めしい」と幽霊に言われた利吉は「お前が借金を残したから仕方なくお滝さんは俺のところに来ることになったんだ!」と反論した後、「お滝さん今晩うちに来てねえぞ!」と意外な一言。「大家が言うには『せめて初七日が済むまでは待ってください。借金を残して死ぬようなダメな人ですが一度は好きになった人ですから』って断られたんだよ!」「そうなんですか!?」「お滝さんはお前が忘れられないんだよ! そんなお滝さんをいつか俺は幸せにしてあげることができるのかな(泣)」「ええっ? で……できます」「ホントか!?」「はい、お滝は任せた」「お前いい奴だな」 それを聞いた三人組が「なんで仲良くなってるんだよ!」と幽霊役を怒鳴りつけてからサゲへという流れ。最後に来ての独自展開はさすが笑二。兄弟子の吉笑に続いて真打トライアルに挑む日も遠くないだろう。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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