広瀬和生「この落語を観た!」vol.18

7月16日(土)午後1時開演
「落語教育委員会」@よみうりホール

広瀬和生「この落語を観た!」
7月16日(昼)の演目はこちら。

柳家小ふね『鈴ヶ森』
三遊亭歌武蔵『植木屋娘』
~仲入り~
柳家喬太郎『すなっくらんどぞめき』
三遊亭兼好『井戸の茶碗』

5月に二ツ目に昇進した小ふねは、フラ全開のトボケた芸風で異彩を放ち、このところ存在感を増している。『鈴ヶ森』も新米泥棒のマヌケさが突出していて可笑しかった。

『植木屋娘』はもともと上方落語で、いま東京では歌武蔵の一手販売と言える演目。可愛い娘お花を檀那寺から手伝いに来ている伝吉と一緒にさせようと奔走する植木屋のドタバタを、歌武蔵は楽しく描く。この植木屋の人柄が実に気持いいのは、演者の個性そのもの。歌武蔵ならではの逸品だ。「さすがは植木屋、根回しがうまいな」「いいえ、お花が咲いて実をつけた」というサゲは歌武蔵オリジナル。

膝の調子が悪い喬太郎は釈台を用いての高座。『すなっくらんどぞめき』は、池袋でばかり遊んでいる池袋マニアの若旦那が、やはり池袋好きの定吉を相手に、池袋の魅力を熱く語り倒す噺。池袋愛を炸裂させる若旦那の生き生きとした語り口こそ喬太郎の本質だろう。とめどなく溢れ出る“池袋トリビア”や世代限定の懐かしネタ、僕はよくわかるので大いに楽しんだ。“すなっくらんど”とは1997年まで池袋駅東口通路に存在した立ち食い屋台の密集した区域のこと。「すなっくらんどが近くにあれば」という若旦那の言葉を定吉が番頭に伝えると、若旦那の池袋通いを憂う旦那の意を受けて番頭が「二階にすなっくらんどをこしらえる」という『二階ぞめき』な展開が演題の由縁。「自分が楽しければそれでいい」というモードに入った喬太郎は最強だ。

兼好の『井戸の茶碗』では、「二十両の代わりに品を渡せば売ったことになります」と提案した大家が「屑屋さん、何かないか?」と尋ねて屑屋の清兵衛が「あの茶碗なんかどうです?」と決める、という演出。殿様からの三百両を千代田と折半しようと清兵衛を呼び、「なんで私が」と抗議する清兵衛に「あの茶碗を選んだのは誰だ」と冷静に告げる高木、という展開が秀逸だ。清兵衛からわけを聞いた千代田の「あれが井戸の茶碗とは……わしはつくづく何も知らんで生きてきたのだな」という呟きが印象的。「娘を高木殿の嫁に」という提案を聞いた高木が「千代田殿の娘御なら間違いはあるまい。会ってみるか」と、いきなり縁談成立ではなく“会ってみる”としているのもいい。ドタバタの楽しさと爽やかな展開は心の底から「いい話だなあ」と思える、兼好ならではの『井戸の茶碗』だ。


次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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