広瀬和生の「この落語を観た!」vol.45

8月18日(木)
「わん丈牡丹灯籠通し 有料生配信」(8/16の配信をアーカイブ視聴)

広瀬和生「この落語を観た!」
8月18日(木)の演目はこちら。

三遊亭わん丈『牡丹灯籠通し(第一部)』
~仲入り~
三遊亭わん丈『牡丹灯籠通し(第二部)』
~仲入り~
三遊亭わん丈『牡丹灯籠通し(第三部)』

『牡丹灯籠』通し公演を都内6カ所で完売にしたわん丈が、前半3公演を終えて改良したいことが出てきたこと、さらに「わん丈ストリート」で『相川新五兵衛』をネタおろししたこともあり、それらを踏まえて新構成での「通し」を考案して急遽有料生配信を企画したもの。無観客での口演。

前回ばばん場で観た『牡丹灯籠』通し公演では、わん丈はまず『お露新三郎』を演じた後、『お札はがし』~『栗橋宿(おみね殺し)』~『栗橋宿(関口屋強請り)』と“伴蔵夫婦が主役の物語”をひとしきり語ると、いったん発端の『本郷刀屋』に戻り、そこから『お国源次郎』~『孝助の槍』~『宇都宮の大団円』と“孝助が主役の物語”を語っていって大団円に至る、という構成で、圓朝の速記で言うところの13章の後半、15章の後半、19章などの“相川新五兵衛宅での出来事”は割愛していた。

一方、今回の配信では、『お露新三郎』から始めるのは同じだが、お札が貼られて幽霊が中に入れないと嘆くところまで語り終えると、ここで発端の『本郷刀屋』に戻り、ここで黒川孝蔵を討った飯島平太郎が成長の後に飯島平左衛門と名乗り、妻を亡くした後にお国という女中を妾にし、お国と折り合いの悪い飯島の娘お露が柳島にお米と共に別居することになったこと(第2章の冒頭)、飯島に斬られた黒川孝蔵の忘れ形見である孝助が飯島の家に奉公に来て、飯島は自分が孝助の仇であることを知ったことを語り(第3章)、伴蔵夫妻の『お札はがし』(第10章、第12章、第14章、第16章)へと移って、伴蔵夫婦が栗橋宿へと逐電したと語って仲入り。ここまでが今回の第1部。

第2部は悪女お国とその愛人の源次郎の物語から。二人は飯島を殺害しようと企て、それを察知した孝助を始末しようとするが失敗、百両を盗んだという濡れ衣を着せようとするがそれも失敗、飯島はわざと孝助に自分を槍で突かせ、孝助を逃がすと源次郎の許へ向かい、返り討ちに遭うところまで演じ(『お国源次郎』『孝助の槍』)、孝助が二人を討つべく越後を目指す。そこから一転して再び伴蔵夫婦の話(『栗橋宿』)へ。悪事の露見を恐れる伴蔵が邪魔な女房おみねを殺して仲入り。ここまでが第2部。

第3部は『関口屋強請り』から。伴蔵が山本志丈と再会、伴蔵が熱を上げている笹屋の女がお国だと判明、強請りに来た源次郎を撃退した伴蔵は志丈と江戸に戻って海音如来の像を彫り出すと、志丈を殺害。ここで先日ネタおろしをした『相川新五兵衛』を挿入。相川と婆や会話で「飯島の仇を討つために旅に出ると言う孝助を説得してお徳と祝言を挙げさせる」経緯を説明。旅立った孝助が2人を見つけられないまま1年後に江戸に戻って飯島の命日に墓参りをして良績和尚の助言により白翁堂勇齋を訪ね、実母りえを再会。『宇都宮の大団円』へと至る。

今回の演出は前回よりもさらにわかりやすく、それぞれの登場人物の複雑な絡み合いを解きほぐしてくれている。圓朝が2つの物語を交互に語って最後に結びつけた『牡丹灯籠』という長大な物語を3時間に凝縮するには、「どこをどう短縮するか」がとても重要で、今回のわん丈の演出はそこが考え抜かれていた。第1部で『お露新三郎』の後に飯島と孝助の因縁を「お露の父の話」として語って『お札はがし』へと続けたのは効果的。第3部は『相川新五兵衛』の挿入が「敵討ちに出掛ける孝助」をより身近に感じさせる。物語の細部に亘って圓朝の原作に忠実でありながら効率的に再構築したわん丈の『牡丹灯籠(通し)』は、短期間のうちに大きく進化した。お見事!

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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