広瀬和生の「この落語を観た!」vol.62

9月17日(土)
「道楽亭ネット寄席 立川寸志・柳亭信楽二人会“負けてたまるか!?”リベンジ」(配信をアーカイブで視聴)


広瀬和生「この落語を観た!」
9月17日(土)の演目はこちら。

立川寸志『小林』
柳亭信楽『目黒のさんま』
~仲入り~
柳亭信楽『魚楽師匠』
立川寸志『辰巳の辻占』

寸志の新作『小林』は“小林”という姓にコンプレックスを持っている男の妄想ヒエラルヒー噺。「小林」はウッディ系の階層の中にあり、「大森>中森>小森>大林>中林>小林>大木>中木>小木」という序列。「森」「林」は「ザ・森」「ザ・林」は別格で、遥か天上で大森以下を見下ろしているのだという。ウッディ系の他にランドスケープ系(松山>竹山>梅山>松岡>竹岡>梅岡>松野>竹野>梅野>松原>竹原>梅原>松谷>竹谷>梅谷)やナンバー系etc.の階級が「厳然として存在している」という小林の世界観が延々と語られる。こういうバカバカしい屁理屈は大好きだ。

信楽の『目黒のさんま』では、親類筋に招待された殿様がさんまを所望したので厨房ではさんまを蒸し器に掛け、骨を取り……のくだりで突然「セクシー女優の紗倉まなさんが骨を取って“さんまが骨抜きなった”」というフレーズが出てきて笑った。わかる人にはわかるギャグ。この日、思いついたそうだ。全体的には正攻法で真っ当に面白い。

『魚楽師匠』は、落語界で四人目の人間国宝になった半魚人の噺。この設定を思いつくのが凄い。そして、この出オチのような設定の広げ方が素敵すぎる。魚楽師匠のもっともらしい語り口がバカバカしさを増幅させるのが演者としての信楽の強み。

寸志は『辰巳の辻占』のマクラで「明治18年、湯島の遊廓に『3年以内に移転せよ』というお触れが出て洲崎の埋め立て地に移転。それまで辰巳と言えば深川の岡場所を指していたが、それ以降は辰巳と言えば洲崎のことになった」という薀蓄を披露。「というわけでこの噺は明治21年以降が舞台です」と本編へ。寸志の軽やかな語り口が似合っていて気持ちよく聴けた。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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