広瀬和生の「この落語を観た!」vol.86

10月31日(月)
「兼好集」@日本橋劇場


広瀬和生「この落語を観た!」
10月31日(月)の演目はこちら。

三遊亭けろよん『狸賽』
三遊亭兼好『強情灸』
柳亭市寿『粗忽長屋』
三遊亭兼好『片棒』
~仲入り~
三遊亭兼好『佐々木政談』

兼好の『強情灸』では、熱くないと言い張る男は腕を内側を上に向けてもぐさを乗せるやり方。盛り上がったもぐさに火が回った瞬間にビクッとしてからの熱そうなこと! 峯の灸に言ってきた男の話からトントンと調子よく進んで一気にサゲまで行くこのテンポ感が心地好い。

『片棒』は武道館を借りて三日間という絢爛豪華な弔いを企む長男の嬉しそうにまくしたてる様子が楽しく、粋でいなせで色っぽい弔いを企む次男のお祭り騒ぎがどんどんエスカレートしていくバカバカしさも素敵。ケチな三男の「棺や経帷子なんて無駄なのでおとっつぁんを裸にして引きずっていきます」という発想も凄い。兼好の軽やかな語り口が聞き手を引き込んで飽きさせない。

『佐々木政談』は奉行の佐々木信濃守を論破し続ける四郎吉があくまで子どもらしく無邪気で明るく素直なので、その利発さが生意気に見えず愛らしい。奉行のそばに上がっていく息子を見て卒倒した父親が気を失っているうちに物事が進行していき、起こされた父に奉行が「15歳になったらこちらで引き受けて教育する。それまでの間しかと教育せよ」という成行きも面白い。「この四郎吉が明治になって裁判官になるという…『佐々木政談』というおめでたい一席」と締めくくり、あえてサゲは付けない演出。爽快な余韻を残す見事な高座だった。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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