広瀬和生の「この落語を観た!」vol.4

6月30日(木)
「弁財亭和泉の“新”新作びゅーびゅー」@らくごカフェ


6月30日の演目はこちら。

弁財亭和泉『あきな5号』『夏の顔色』『わんわーん』『恋するヘビ女』

『あきな5号』は三遊亭圓丈作品。日本でも台風に女性の名前をつけることになり、気象予報官ヤマダが台風5号に名付けた“あきな”が愛人の名前と誤解され、憤りを感じた女性予報官のイシカワがヤマダの妻の名(ようこ)を台風6号に付けてテレビ番組で発表したことで大騒動になる噺。池袋演芸場の6月上席「任侠流れの豚次伝 全十話連続公演」で初日のトリを務めた和泉は、トリ以外の出番で「他人の作品」というテーマを設け、古今亭志ん五の『フォーリンロボ』、林家彦いちの『保母さんの逆襲』、三遊亭れん生の『お茶漬けは大盛りで』、そしてこの『あきな5号』を演じた。台風を擬人化したイシカワの「あきなvsようこ」の実況で煽られた人々が“あきな派”“ようこ派”と対立し、遂には台風の現場に出かけて応援合戦を行なうというドタバタで、圓丈自身もほとんど演じていない作品だが、和泉は“SNS上で炎上”“暴露系ユーチューバー”といった現代的な要素を注入して生き生きと演じた。持ちネタとして定着しそう。

『夏の顔色』は和泉の夏の定番とも言うべき名作。田舎でのんびり夏休みを過ごしたいという亭主(マサヨシ)に付き合わされて「いい嫁」を演じる東京生まれの妻と、小遣いをもらうのをモチベーションに「いい孫」を演じる子供。「ほのぼのとした田舎の両親」という幻想を壊さないようにWi-Fiを切って普段のネット依存生活を捨て、窮屈な思いをする両親。互いの顔色をうかがう1週間に疲れ果てる周囲をよそに、リフレッシュして東京に帰っていくマサヨシ。“あるある”満載、万人が共感できる作品。「“ある意味”はディスる言葉」というのが、この作品の裏テーマでもある。

夫の上司の妻が「ピエールちゃん(愛犬)が人間の言葉が話せるようになった」と信じ込んでいるのに付き合わされる、社宅住まいの主婦の苦悩を描く『わんわーん』。「社宅は奥さんたちにとって芸人にとっての屋形船」(=逃げ場がない)という台詞がすべてを物語っている。

『恋するヘビ女』は三遊亭白鳥作品。和泉は小学生の淡い初恋を描く甘酸っぱい噺として聴かせてくれる。僕にはもはや白鳥作品と言うより“和泉の噺”という印象が強い。この“淡い初恋”の延長線上に、田舎の高校生カップルの純情を描く『すぶや』がある、ような気がする。


次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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