広瀬和生の「この落語を観た!」Vol.135

5月20日(土)
「鈴々舎馬るこ芸歴二十周年記念落語会」@内幸町ホール

広瀬和生「この落語を観た!」
5月20日(土)の演目はこちら。

鈴々舎馬るこ(ごあいさつ)
鈴々舎美馬『ん廻し』
鈴々舎馬るこ『姉妹仇討白石噺』
~仲入り~
鈴々舎馬るこ・桂宮治・柳家わさび・春風亭昇也(トーク)
鈴々舎馬るこ『いぼめい』

馬るこの芸歴20周年を記念して行なわれた独演会。トークゲストに馬ること共にBS日テレ「笑点特大号」若手大喜利に出演しているわさび・昇也、若手大喜利から地上波に抜擢された宮治を招いているのがひとつの目玉となっていた。

『姉妹仇討白石噺』は人形浄瑠璃や歌舞伎の演目『碁太平記白石噺』にある姉妹の仇討物語を題材とした新作講談の台本を、馬るこが落語仕立てにしたもの。14歳と11歳の2人の娘が自分を敬わないので説教したいと八五郎が隠居に相談しに来ると、隠居は大刀を構えた大男と二人の女性が対峙する錦絵を見せ、「碁太平記白石噺」の題材となった奥州白石の姉妹による仇討物語を聞かせる……という設定。

伊達藩の志賀台七という悪代官が些細なことで白石の百姓を斬り殺す。目の前で父を殺されたおみや(14歳)・おのぶ(11歳)姉妹は父の仇を討ちたいと江戸に出て由井正雪に入門を志願。正雪はまず二人に武術とは関係なさそうな奉公をさせ、三年後に姉おみやには薙刀を、妹おのぶには鎖鎌を渡す。三年間の奉公は“武”の下地となる修練だった。おみやは“宮城野”、おのぶは“信夫”と名を改め正雪の下で三年間修業を積むと、仙台に戻って城主片倉小十郎に仇討を願い出て御前試合を許され、見事に志賀を倒して本懐を遂げる。隠居がこれを語っている中で八五郎はいちいちボケをかましては脱線し、笑いを呼ぶ。この“脱線”こそが馬るこ落語の真骨頂。八五郎はこの仇討物語を聞いて感心し、娘たちにこれを語って聞かせようと帰宅すると、女房が「今日はお姉ちゃんが彼氏を連れてくるのよ」と言い出して……という展開でサゲへ。馬るこ独自の大ネタとしてすっかり板についた感がある。

爆笑エピソードが次々に飛び出したトークコーナーが予想以上に盛り上がったこともあり、「トリネタは短めに」ということで、最近よく高座に掛けている落語協会の2022年度落語台本募集の優秀賞受賞作品『いぼめい』を。新卒採用の面接にやって来た学生の訛りがキツくて面接官の部長はまったく聞き取れないが、部下がこの学生の言わんとすることを察して対応する、という噺。「多様性」「圧迫面接」といった時事ネタを意外な角度から扱った奇抜な台本が、馬るこの“圧”の強い芸風に見事にハマった爆笑編となっている。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

※S亭 産経落語ガイドの公式Twitterはこちら※
https://twitter.com/sankeirakugo