広瀬和生の「この落語を観た!」vol.37

8月7日(日)夜
「三遊亭わん丈『牡丹灯籠』全編勉強会」@ばばん場

広瀬和生「この落語を観た!」
8月7日(日)夜の演目はこちら。

三遊亭わん丈『お露新三郎』
~仲入り~
三遊亭わん丈『お札はがし』『栗橋宿(おみね殺し)』
~仲入り~
三遊亭わん丈『関口屋強請り』『本郷刀屋』『お国源次郎』
~仲入り~
三遊亭わん丈『孝助の槍』『宇都宮の大団円』

わん丈は2021年に勉強会「わん丈ストリート」の会場を国立演芸場に移したときから三遊亭圓朝作『怪談牡丹灯籠』のネタおろし連続口演を始め、第1回の『お露新三郎』から今年4月まで1年間かけて、ラストの『宇都宮の大団円』までやり通した。それを踏まえて、この夏は3時間での全編通し口演にチャレンジ。会場を変えて東京6公演行なわれる中、初日の高田馬場・ばばん場公演を観た。

『牡丹灯籠』は、飯島平左衛門の娘お露と浪人の萩原新三郎の出会いから伴蔵とおみね夫婦の物語となっていく流れと、黒川孝助が悪女お国と愛人の源次郎を主君(飯島平左衛門)の仇として討とうとする流れの、二つの物語が交錯して大団円に向かう大長編。圓朝口演の速記は全22章から成り、大まかに言うと前者が「2、4、6、8……」という偶数章、後者が「1、3、5、7……」という奇数章という具合に、圓朝は二つの物語を交互に語っていった。

これを今回わん丈は、まずは第2章から始まる“カラン、コロンの怪談”を含む偶数章の物語を第18章(関口屋強請り)まで語り、次に第1章に戻って奇数章の孝助の物語を語って、最終的に2つの物語が1つになって大団円へ向かうという構成に整理した。この演じ方はとてもわかりやすい。しかもわん丈は、基本的に圓朝の原作に忠実でありつつ、独自の演出を施して3時間にすっきりとまとめていた。実に見事だ。

それでもわん丈はこれが完成形だとは思っていないという。まともに全場面を演じると非常に長い時間を要するこの長編を3時間にまとめるために、わん丈はいくつかの場面を割愛している。例えばこの日の口演では、飯島を刺した孝助が敵討ちの旅に出るまでのくだり、及び1年ぶりに江戸に戻ってきた孝助が不在の間に生まれた長男と対面をするくだりと、相川新五兵衛宅での2つのエピソードを割愛していたが、これをどうにか組み込むことができないか、まだ模索しているところだとわん丈は語っていた。

いずれにしても、3時間の口演を飽きさせることなく聴き手を引き込んで離さなかったのは素晴らしい。あくまで原作を尊重しつつ、現代人にも親しみやすい平易な語り口と、落語として楽しませる工夫を施して、聴き応えのある物語として自分らしく再構築したのは立派だ。『牡丹灯籠』はわん丈のライフワークになるだろう。圓朝の直系の一門に属する若手がその大事業に挑んだ心意気に「アッパレ!」を献上したい。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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