広瀬和生の「この落語を観た!」Vol.138

6月14日(水)「林家きよ彦独演会」@日暮里サニーホール

広瀬和生「この落語を観た!」
6月14日(水)の演目はこちら。

林家きよ彦『令和が島にやってきた』
林家きよ彦『いい感じの小料理屋』
~仲入り~
林家きよ彦『イルカに乗った少年』

新作派の女性二ツ目、林家きよ彦。彼女は既に独特の作風を確立していて、一貫してクオリティが高く、“演者”きよ彦の語り口の個性がその作品世界を見事に表現している。つまり、もう完成形に達していると言ってもいい。新作派の二ツ目では立川吉笑、柳亭信楽に続く存在だと思っている。女性で言えば弁財亭和泉がまだ二ツ目の“三遊亭粋歌”だった頃を思い出させるが、粋歌の新作はモチーフとしての“女性”の存在が観客にとって新鮮だったのに対し、きよ彦の作品世界においてはその要素は少ない。方向性としては“オーソドックスな新作”で、そこにきよ彦ならではの“発想の面白さ”が加わって独自の世界が生まれている、という感じ。

一席目の『令和が島にやってきた』は、人口が百人にも満たない離島が舞台。世間から隔絶された生き方をしているこの島では、ついこの間“平成”が来たばかりで、ようやく平成の暮らしに追いついてきてきたところなのに、あの“令和”が東京からやって来るというので大騒ぎ……という噺。「平成中期までの日本と今がどれだけ懸け離れているのかを“平成”側から見る」という発想を、落語として上手くまとめている。「ユーチューバー」「クワガタの幼虫」「お祭り」の三題噺として最近作ったのだという。この三題でこの噺にしたのが凄い。

二席目の『いい感じの小料理屋』は、府中で仲のいい夫婦が営むレトロな小料理屋“やまもと”の常連客が偶然知ってしまう驚愕の事実。“驚愕の事実”を“心温まる話”に持っていく展開が見事だ。きよ彦の創作力の高さを物語る、愛すべき小品。

『イルカに乗った少年』は品川の水族館での出来事。真夏のある日、ショウの初日を終えてイルカやアシカ、ペンギンといった動物たちが打ち上げをしていると、かつてこの水族館で人気絶頂だったが得意の大技ジャンプで窓を突き破って海に出ていってしまったという伝説のイルカ“おギン姐さん”の話題になり……。おギン姐さんの特訓を受けて逞しくなったイルカのララちゃんの奮闘物語。三遊亭白鳥的な匂いが濃厚な物語(オチの付け方も)だが、きよ彦のリアルな演技によって一味違う世界観を創り上げている。とりわけおギン姐さんのドスの効いた演じ方が素晴らしい。きよ彦の『流れの豚次伝』や『落語の仮面』も聞いてみたい気がする。

それぞれタイプの違う三席を堪能。ちなみにマクラも抜群に面白い。もっと追いかけたい演者だ。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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