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広瀬和生の「この落語を観た!」Vol.170

5月4日(土)「擬古典落語の夕べ7 ナツノカモ江戸噺2)」

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 入船亭辰ぢろ『手紙無筆』
 柳亭こみち『絵道楽女房』
 立川談笑『妻幽霊』
    ~仲入り~
 三笑亭夢丸『明晰夢』
 入船亭扇辰『梅香の犬』

「擬古典落語の夕べ」の第7回は落語作家ナツノカモが創作した擬古典作品特集。4月11日に日本橋社会教育会館で行なわれた会をアーカイブ配信で視聴した。

こみちが演じた『絵道楽女房』は、外に出て何かを見るとあれこれ想像を巡らしてしまい時間が経つのを忘れ帰りが遅くなって晩飯の支度もしない女房のおみつに手を焼いた熊さんに「どうしたらいいか」と相談を受けた大家が「おみっちゃんが外で見て何か考えたことを家に帰って絵に描くように勧めたらどうだ」と提案する噺。

おみつは嬉々として家で絵に描くようになるが、それは外で次々と浮かんだ妄想が1枚の絵に収まったもので、亭主は面食らってしまう……。マクラでこみちが言った「女性同士の会話だと1つの話題からどんどん繋がっていっていつまで経っても終わらない」「自分の頭の中で次から次へと物事が繋がっていった最後の部分だけ亭主に言うと理解してもらえない」といった例え話のおかげで、こみちが演じる“妄想癖のある女性”に共感できた。

談笑が演じた『妾幽霊』は、ある長屋に引っ越してきたトラという男がその部屋で死んだ男の幽霊に出くわし、「どっか別の部屋に住んでくれ」と掛け合う噺。トラの指示で幽霊があちこちに行ってみるうち、意外な展開に……。談笑が演じる「幽霊を怖がらないトラと弱気な幽霊」のトボケた会話が楽しく、結末もスマートだ。

夢丸が演じた『明晰夢』は立川吉笑が持ちネタにしている作品。家を出て散歩していた八五郎が友だちのトラに誘われて二人で寄席に行くと、前座が彼ら二人のやり取りを再現し始め、その前座の落語の中で前座が出てきて、二人のやり取りを再現し始め……。

「落語の登場人物が『自分は落語の登場人物である』ということを知っている」というアイディアを論理的に弄ぶ落語、という複雑な構造の噺を、夢丸は吉笑とは異なるアプローチで熱演し、新鮮に引き込まれた。

扇辰が演じた『梅香の犬』は茶店の看板娘お千代と野良犬シロの噺。「お千代の心の声を代弁する」役割を担ったシロのいじらしい心情を吐露するラストの余韻は扇辰ならでは。四人の演者がそれぞれの持ち味を発揮した素敵な会だった。