広瀬和生の「この落語を観た!」vol.104

11月29日(火)
「落語教育委員会」@めぐろパーシモンホール 小ホール


広瀬和生「この落語を観た!」
11月29日の演目はこちら。

コント「演芸千一夜」
春風亭与いち『代脈』
三遊亭兼好『町内の若い衆』
~仲入り~
三遊亭歌武蔵『支度部屋外伝』
柳家喬太郎『錦の袈裟』

兼好の『町内の若い衆』は、大将のところでお内儀さんの台詞に感心した帰りに「なんであのカカアと一緒になったんだろう……」と思い出すエピソードが面白い。この男の“苦み走った”女房を見て家に帰ると自分の女房がお姫様に見える等の表現は五代目圓楽にあったものを継承しているが、いかにも凄い女という印象の圓楽と違って、兼好の場合はそこに独自の台詞を加えることでどこか可愛げがありそうにも思え、この女房の演じ方も軽やかなので、カラッと笑える。“きわどさ”を感じさせない爽やかな『町内の若い衆』だ。

歌武蔵は11月場所(優勝は阿炎)が終わった直後ということもあり、時事ネタ連発から相撲漫談への必勝パターンで沸かせた。それにしても北の富士のエピソードは何度聴いても新鮮に笑える。北の富士その人も相当面白いが、それを語る歌武蔵の話術が素晴らしいからこそ、「知ってるのに笑っちゃう」のである。

喬太郎の『錦の袈裟』は与太郎を殊更にバカっぽく描かず、しっかり者の女房と意外にお似合いな感じ。女郎買いが嬉しくて仕方がないスケベ心満開な与太郎、という描きかたは珍しいが、喬太郎らしい演出だ。兼好の『町内の若い衆』が艶笑落語という匂いをさせないのと対照的に、喬太郎は艶笑落語としての色が濃厚な『錦の袈裟』なのが興味深い。一夜を女郎と過ごした翌朝の与太郎が「頭よくなっちゃった」という変貌ぶりは『明烏』の時次郎の変化形にも見え、その“頭のいい喋り方”がそこはかとなく喬太郎の師匠さん喬を思わせる風情だったりするのも楽しいが、もともとこの与太郎は「バカな振りをしてるだけ」なのかもしれない。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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