広瀬和生の「この落語を観た!」vol.5

7月1日(金)
特別興行「シン・文菊十八番」@上野鈴本演芸場
17時15分入場


7月1日の演目はこちら。

ダーク広和(奇術)
古今亭圓菊『夏どろ』
三遊亭圓歌『やかん工事中』
風藤松原(漫才)
古今亭菊志ん『風呂敷』
柳亭こみち『壺算』
~仲入り~
ペペ桜井(ギター漫談)
春風亭百栄『寿司屋水滸伝』
鏡味仙志郎・仙成(太神楽曲芸)
古今亭文菊『稽古屋』

菊志んの『風呂敷』は女房が日常的に浮気をしているという設定。いつものように間男と家で楽しんでいたらいきなり亭主が帰ってきて困っている、という状況で、もともと『風呂敷』はそういう噺だった。菊志んの明るい語り口にはこの演出が似合っていて楽しく聴けた。風呂敷を使って間男を逃がした後、亭主が「アニキは話がうめえなあ、逃げていく下駄の音が聞こえてきたよ」でサゲ。菊志んオリジナルだろう。これは見事だ。

こみちの『壺算』は、買い物上手な“大阪のオバチャン”が道具屋の主人を翻弄する。根岸りつこ(人呼んで“ねぎり”)という計算高いオバチャンに買い物を頼むのには手みやげ持参で、という女房の作戦も理に適っている。このオバチャン、買い物の秘訣は「気合い!」と言い切るだけに物凄い迫力でグイグイ押しまくる。この演目に関しての“こみち演出”は単に「女性を主役に」というのではなく、あくまでも“大阪の”オバチャンであるところがミソ。こみちの操る大阪弁も実に自然。途中で「11個の飴玉を3人で1/2、1/4、1/6に分ける」問題が挿入されるのは三三演出の踏襲だが、“大阪のオバチャン”だから「飴ちゃんを常備している」のも理に適っている。テンポの良い運びはこみちの“地力”が物を言っている。「私の思うツボやろ? あ、ツボやないわ、カメやったわ」でサゲ。オバチャンのハジケたキャラが抜群に可笑しい逸品だ。

百栄はいつもの“おかキャビア”のマクラからお馴染みの『寿司屋水滸伝』。洋食の修業しかせず寿司屋を継いだ二代目のネチネチした喋り方がこの噺を一層面白くしている。柳家喬太郎作品でありながら、今や“百栄の噺”というイメージの方が強いくらいだ。客席のウケがまた爆発的で、この噺を初めて聴いた人が多かったという印象。

この興行は主任の文菊がネタ出しをしている。この日は『稽古屋』。隠居に“女にモテる方法”を訊きに行く「色事指南」パートで八五郎がたびたび繰り出す素っ頓狂な大声が絶妙に可笑しい。この“素っ頓狂な大声”の可笑しさは後半の稽古屋の場面でも度々炸裂して笑いを誘う。鳴り物が入って稽古屋の師匠から清元の『喜撰』を習う場面、師匠が子供の踊りの稽古に移った場面、どちらも師匠のねっとりとした演じ方が真に迫り、八五郎のダメさと相まって何とも楽しい。上方唄の『捨鉢』という歌が載ってる本を借りて帰った八五郎が火の見櫓で「煙が立つ」と大声で繰り返すのを聞いた長屋の連中が「火事はどこだ?」と尋ね、「海山超えて」「そんなに遠くちゃ行かねえ」でサゲ。八五郎の台詞を文字で起こしたら面白さが伝わらない、文菊ならではのダイナミックな演技が冴え渡る。こんなにバカバカしい可笑しさを『稽古屋』で出せる演者も珍しい。さすがだ。


次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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