「フェイクドキュメンタリー『Q』」は「解らないから怖い」を地で征く…のは良いが

たまにはセクシャリティ云々以外のことでも書き綴ってみようと思う。

ご存じの方も多いだろうが、「フェイクドキュメンタリー『Q』」というホラー動画がYoutubeにて投稿されている。

第一シーズンは2021年8月から2022年5月まで計12作品、番外編の「フィルムインフェルノ」を挟んで第二シーズンが2023年1月から始まり、2作品投稿されている。

で、この「Q」シリーズ。雰囲気は非常に不気味であるのだが、具体的に何が怖いのかはっきりしない。いや、例えば呪いのビデオと称する映像を視聴した者が死んだり、おかしな宗教団体らしき集団に何者かが拉致されたり、異世界(鏡の中や地獄)に犠牲者が送り込まれたらしき描写は存在する。

単発で観ると上記事象は勿論怖い。しかしながら、シリーズ開始から既に15作品が投稿され、各々の繋がりを示唆するような描写は多々あるのだが、作品通じての黒幕のような存在については未だに全くの謎である。

そもそも、「Q」はホラーに分類されるが映像内に明確な霊体は殆ど存在しない。出現するとしても精々真っ黒な人影(1-Q3、Q4、Q9、2-Q1)として表現される程度であり、霊の具体的な素性は不明なままだ。

霊体以外もはっきりしない。宗教団体の場合、Q8のタイトルが「光の聖域」だからマスク姿の集団が宗教団体の信者と捉えているだけだし、「フィルム・インフェルノ」の地獄の存在もカセットテープのノイズ(『インフェルノ』のタイトルから地獄で苦痛に喘ぐ音声のように聞こえるが、只の機械音とも考えられる)で示されるのみだ。

また、字幕やナレーターにより提示される出演者の肩書きですら疑わしいのだ。最早何が正解なのかさっぱりであり、ホラーというより推理小説の趣である。

「Q」において視聴者が恐怖を覚えるのは呪いのビデオや黒い人影といったそのものズバリな怪異より、寧ろ聞き取り不能な音声であったり何かを隠していそうな登場人物など、「知り得ない事象」に対してであろう。このような「はっきりせず、匂わせる程度」の情報を小出しにすることにより、「Q」スタッフは恐怖を煽り、1年半に亘り人気を維持することに成功しているのだ。

本作品の製作責任者である皆口大地氏はJホラーの良さについて、「『恐怖の輪郭は見えているのに、自分が何に触れているのかよくわからない』という状況を湿度高く表現する点にあった」と述べている。「Q」は正しく本発言を忠実に映像化したものであると言えるだろう。そして、「驚くような考察が多々寄せられ」、「全ての考察を僅かでも否定したくない」「作品は観られることによって完成する」という信念のもと、全体を結ぶ大きなシナリオや黒幕的存在に関しては絶対に明かさないと公言している。

皆口氏の発言がJホラーの本質だとすれば、幽霊の正体見たり枯れ尾花、は古来日本人のホラーへの感性を端的に表した言葉だ。正体が分かってしまったり、名前が知れてしまったり、具体的な設定を付与されて掴みどころのある存在になると怪異は最早怪異ではない。解らないから怖い。想像が膨らみ、只の行灯や猫が化け物に早変わりだ。その本質を巧みに突く「Q」シリーズは際立った作品である。

だが、正直に述べると私は上記インタビューでガッカリもした。

「絶対に全シナリオを結ぶ大きなストーリーは明かさない」、それ自体が酷いネタバレではないか。
必死に考察を捏ね回すのは、最後には「完全でなくとも、ある程度腑に落ちる答え」が製作者側から得られると信じているから、な視聴者も多い。斯様な人々にとって、「匂わせるだけで何も明かしません」では考察など虚しいものにしかならない。そんなもの、「ぼくがかんがえたさいきょうのえばのしんじつ」を垂れ流すファンだらけの某作品と同じではないか。

「語り得ぬものについては沈黙しなければならない」のだ。フワッとした情報を基にあれこれ考察するのはシリーズ途中において楽しくとも、最後まで意味不明なまま終わるのが確定しているのはどうなのだろうか。

何も全て明かさなくとも、「8673」「山」「目が合う」「宗教団体」「鏡」、この辺りの謎の内一つくらいは更に深く掘り下げても…。インタビューでその可能性が潰えたのは、残念極まる。



PS)そして一見関連のない事項を小出しにしていき、最後には禍具魂という怪異に纏めた「ノロイ」の白石監督は天才中の天才であると改めて確認した次第である。

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