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#13 雨の風景/寺尾聰

【リフレクションズ】は兄が買った。おそらく町の高校に行っていた姉に頼んだのだと思う。81年は弟の私もイモ欽トリオの「ハイスクール・ララバイ」とアルバム【ポテトボーイズ№1】を入手しているので、対価を払って音楽を聴く、という未知のゾーンに踏み入ったのが81年といえる。

毎日、兄がレコードをかけながら歌う。ビートルズのリスニング習慣が繰り返される。弟の私は自然に聴くとは無しに全曲覚えてしまう。【リフレクションズ】のビッグヒットのあと、83年の暮れに【アトモスフィア】がドロップされる。すでに「ロング・ディスタンス・コール」や「飛行少年」のシングル、「今夜でピリオド」「まさかTokyo」「砂の迷路」などのTV披露などもあり、兄の購入意欲を待っていたが買う気はなさそうである。

シングル「回転扉」も寺尾節満載でヒットするのだろうなと思っていたが、セールス的には今一つだった。しかし、既発曲すべて好みなのである。ならばと勢いでLPを購入する。当然、大好きになり中2、中3時代の愛聴盤となった。中でも「雨の風景」が好きだった。穏やかで美しいメロディーは剣道の部活で心身ともにクタクタの中2に染み渡る。寺尾さんのヴォーカルはダブらせるのが特徴で、そこに単なる強調にとどまらないコクと深みが生まれる。

サビだけダブりの曲が多いが、ほぼ全編ダブりという曲もある。「雨の風景」はひとり二役ヴォーカルが、頻繁に掛け合うのが魅力だった。例によって、カセットに落とし毎日聞いていた。当時、SONYのウォークマンが一斉を風靡しつつあった。ついぞ購入できなかったが、ある時、東芝WALKYを入手した。小型カセットテープ再生機である。その入手経緯と詳細がどうしても思い出せない。級友のお古をもらったのか、姉ないしは兄の、そのまた友人のお古をもらったのか。いずれにしろ、誰かにもらったのは間違いない。

当時のガールフレンドとは、放課後ともに部活終わりか、日曜の午後に会っていた。小さな町の誰もこない公園で2時間~3時間、互いに自転車に乗ったまま、ただ喋って時を過ごすだけである。私は毎回、東芝WALKYとその時好きなカセットを持参する。小さなヘッドフォンで彼女に聞かせる。腕時計を落としてしまい、二人で草むらを数時間探したことがあった。暗くなってきて結局見つからなかったが、彼女は親身になって腕時計を捜索してくれた。

ある時、【アトモスフィア】のカセットを彼女に送ったことがあった。どんな感想だったかは記憶にないが、渡したことは覚えている。あまり絶賛される評価ではなかったと思う。しまった。中森明菜やチェッカーズや安全地帯を渡すべきだったのか。今思えば、中2男子が女子に送るカセットとして、寺尾聰【アトモスフィア】が適切だったかは、わからない。別々の高校に進学し、いつの間にひとりになり、“別れはいつも雨の風景”、だったかどうかも憶えていない。


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