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#27 乱れ髪/大滝詠一

 最初に買った大滝さんアルバムは【ロンバケ】でもなければ【イーチ・タイム】でもない。【大瀧詠一】である。冷静に考えれば、ファーストソロであるので、正調な聞き方といえる。81年の【ロンバケ】も84年の【イーチ・タイム】も、当時のニューリリースを紹介するFM番組では、ほぼ全曲エアチェック可能で、貧乏中学生には買う必要がなかったのである。

 とある30分番組で5曲かかり、違う30分番組で残りの4~5曲がかかる。また、他局の1時間番組で、全曲オンエアされる、なんてことが当たり前だったのだ。まさにエアチェック黄金時代。したがって私が【ロンバケ】を買うのがまず90年代に中古LP、次に三角山に寄付したCD選書、次に2001年の20th、2011年の30th、そして2021年の40thVOXと続く。

 それはまた、別の話として【大瀧詠一】である。おそらく、92~93年ころ購入。キング(ベルウッド)からリリースされたそのCDは恐ろしく音がショボかった。ナイアガラーとしてのデビューは、弟子のシュガーベイブに譲ったが、大滝さんのベストは今でもこの【大瀧詠一】だと思う。「春よ来い」でも「12月の雨の日」でもない、「君天」でも「カレン」でも「ペパーミント・ブルー」でもない、ネイキッドな大滝さんがそこにはいた。

 音楽的ルーツをこれでもかと注入し、分母分子論に根差したアメリカン・ポップスの換骨奪胎。ほんとうの大滝さんに触れた経験はまさしく私の音楽リスナーとしてのたたずまいを決定づけた。その音楽の根底にあるものとは何か。アーティストの人生を形成してきた素地とは何か。そして、それらを取り巻く歴史をさかのぼることで得られる音楽のふくよかな味わい方。まさに音楽における聖地巡礼、お遍路回りを我々は続けていくのだよ。大滝さんはこのような音楽聴取のしかたを我々に提示した。

 収録曲のすべてが明確な先達を匂わせ、さらなる探究へとリスナーを誘う。アルバム【大瀧詠一】とは聴取体験であり、反復練習のようなドリル学習であり、あらゆる音楽欲を満たすために、この先も永遠に続く冒険の先行研究として君臨しているのだ。
 
 後ろには策士であり、はっぴいえんどをこよなく愛した、ベルウッドの三浦光紀がいた。URCから中津川ジャンボリーとシングルのみのディストリビュートを手繰り寄せた三浦は、はっぴいえんどをもっと周知させる目的で、ソロ作品の契約も取り付け、まずはポップセンスの高い大滝に目をつける。

 このあとは、細野、鈴木のソロ作品も予定されていた、はずだった。【大瀧詠一】は、もともとソロシングルをインクルードした作品を想定したものであり、後年「オムニバス」というタイトルでリイシューもされている。だから全曲が2分台、3分台と短い。全体を通して、スペクター、ロコモーション、CSNYやジョニ・ミッチェル、プレスリー、モータウンや、ニューオーリンズ、サザンロック、スワンプの香りを漂わせながら、さらにはヨーデル(ウイリー沖山!)まで網羅する。

 松本隆の旧友・柳田ヒロも同じ歌詞に曲をつけた同歌詞異曲もある「乱れ髪」。大瀧版はロコモーションを書いたキャロル・キングが、NYから西海岸に渡り、夫チャールズ・ラーキー、ダニー・クーチと組んだシティを思わせる。“外は乱れ髪のような雨、ごらん、君の髪が降る”。このアルバムの中で、一番好きなメロディであり、一番好きな歌詞でもある。

★番組情報:レコードアワー
放送時間:毎週月曜 8:00~9:00
再放送情報は三角山放送局HPのタイムテーブルをご確認ください

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