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#21 さよならロンリー・ラブ/エア・サプライ

 EW&F【エレクトリック・ユニヴァース】のあと、2番目に買った洋楽LPは、エア・サプライ【グレイテスト・ヒッツ】だった。このベストからの新曲がめちゃくちゃ好きだった。“Making Love Out Of Nothing At All ”、邦題は「渚の誓い」という。この時は、ステキな邦題だな、と思っていたのだ。

 まんまと罠にはめられたことを知るのは少し後になってからだが。ミートローフで成功を収めた作者のジム・スタインマンは、当時ボニー・タイラー「愛のかげり」が1位となり、そのせいで「渚の誓い」は2位止まりを3週続け、ジム・スタインマン作品が1位2位を独占する無双事態になっていた。

 エア・サプライはラジオを聴き始めたときからヒットを連発していたオーストラリアのグループ。特に気になっていた曲があった。MTVがスタートした時代であったが、洋楽の映像が当時のTVで流れることはめったにない。ある時、土曜日朝の情報番組「モーニングサラダ」の音楽コーナーで、エア・サプライのライブ映像を見た。曲は静かに始まるが、サビで一気にハイトーンボイスがさく裂する。ピアノやストリングスが美しく、日本人好みの哀愁漂う曲調。「さよならロンリー・ラブ」というタイトルも憶えやすかったのでとても印象に残っていた。

 LPの帯には〈ペパーミント・カラーの風がコバルトの海と空をかけぬけたとき、僕達の恋は歌になった〉とある。ジャケットには真っ青な空と海、洋上に浮かぶ大きな緑と青の帆を張ったセーリングボート。視覚的な爽快感、この上ない。山本さゆりさんの解説も繰り返し読む。

 デビューヒット「ロスト・イン・ラブ」のアコースティックな雰囲気と、のっぽのVo.G.グラハム・ラッセル、モジャモジャ頭のVo.ラッセル・ヒッチコックJr.のハーモニー。姓名にラッセルが入っている同士で少々ややこしい。パッと見、星セントルイスを彷彿とさせるふたり。サウンドはウエストコースト・サウンドを想起させ海のイメージ、夏の印象を否が応でも持ってしまう。どのLPかは忘れたが、〈一家に一枚、ペパーミントサウンド!!〉というキャッチコピーもあったはずだ。

 しかし、これらはすべてアリスタレコードや日本スタッフの戦略であるということがわかる。「シーサイド・ラブ」「渚の誓い」「潮風のラブコール」など、かなり海や夏に寄せた邦題をつけているのも、言わずもがなである。しかし、エア・サプライは「海」も「夏」もほぼ歌っていないのだ。決してTUBEのようなサマーソング・エキスパートではないのである。それはそれとして、夏だ!海だ!エア・サプライだ!というイメージは、われわれファンとしては聴取イメージを拡張させてくれた幸せな刷り込みとなった。

 中でも好きなのはBメロ部分。Aメロの静かでメロディアスな導入から一転、ラッセル・ヒッチコックJr.の中音域ボイスがたたみかけ、一気に高音域のサビを迎える。このBメロで主人公は思い悩む。悩んで悩んで、悩みぬいた末にBメロとサビは一体化して「ま、いいか!」と開き直るのだ。「さよならロンリー・ラブ」の原題は、“Even The Nights Are Better”という。私なりに訳せば、“こんな夜でも良しとしようか!”てなところか。妥協ではない、肯定である。この主人公とは気が合いそうである。

★番組情報:レコードアワー
放送時間:毎週月曜 8:00~9:00
再放送情報は三角山放送局HPのタイムテーブルをご確認ください

★【リクエスト募集中】8月25日(日)放送 ベストプレイリスト第36弾「映画音楽 この1曲」


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