#28 ベイビー・ビー・マイン/マイケル・ジャクソン
マイケル・ジャクソンの【スリラー】はどうしても買う必要があった。もちろん、私の住んでいた小さな町でも数十人は買っていたであろう、大ヒットLPである。7曲もの曲がカットされ、すべてがヒットしていく中、どの時点でLP購入に踏み切ったのかは残念ながら憶えていない。おそらく、人気が一段落ついたころに買ったような、なんとなくそんな記憶があるのだ。
シングルカット第1弾、ポール・マッカートニーとのデュエット「ガール・イズ・マイン」ヒット中ではもちろんないし、次の「ビリー・ジーン」でもない。その次の「今夜はビート・イット」でもない。このころ、MJフィーバーはかなりの熱風を持って日本でも駆け巡り、そのあとの4弾「スタート・サムシング」5弾「ヒューマン・ネイチャー」と続く。おぼろげな記憶では6弾「P.Y.T.」のような気がする。ああ、この並び「ヒューマン・ネイチャー」から「P.Y.T.」。この並び、なんとなく愛着がある。なので、推理によると【スリラー】購入は、一段落した83年の冬のはじめと推察される。
前述したシングルカットの数々、特に「ビート・イット」まではラジオで恐ろしいくらいにかかっていたので、エアチェックすれば聴ける。そのため積極的にLPが欲しいという感じでもなかったのだ、当初は。
それが、次々とカットされていく中、バラバラのテープにエアチェックされた曲を断片的に聞くよりも、LPの流れで聴きたい、LPを買わなくてはならないという所有欲求バイアスが発令された。
そして、今度はポールのアルバムにMJがゲスト参加した「セイ・セイ・セイ」が83年暮れから84年初頭に6週連続1位の大ヒット。いまいち、この曲の良さがわからぬまま、ポールの新譜【パイプス・オブ・ピース】も聞きたくなる。シングルカットは「P.Y.T.」まで、たぶん6曲で終わるのだな、と思いきや満を持してタイトル曲「スリラー」が第7弾としてシングルカット、有名な15分ほどのショートムーヴィーは、正直飽きるほど見た、ので完璧に飽きた。
【スリラー】には、クインシー・ジョーンズにその才能を買われた元ヒートウェイブのロッド・テンパートンが、前作【オフ・ザ・ウォール】に引き続きソングライティングに参加していた。【スリラー】には3曲提供。彼が手掛けた1曲が「スリラー」であり、残りの2曲は結局シングルカットされなかった「ベイビー・ビー・マイン」「ザ・レディ・イン・マイ・ライフ」である。
実は、この2曲がすこぶる好きだった。「ベイビー・ビー・マイン」の洗練されたアレンジは、前作の「ロック・ウィズ・ユー」を彷彿とさせ、ロックとディスコとR&Bの垣根を鮮やかに超えてみせた。軽やかで洒脱なこのディスコチューンはロッド・テンパートンの真骨頂、さすが「ブギー・ナイツ」を書いた人、である。そしてアルバムを締めくくる「ザ・レディ・イン・マイ・ライフ」は、MJの歌唱力をこれでもかと見せつける泣きの一撃。アルバム中もっとも“エモいマイケル”を堪能できる名曲だ。意図したことではないだろうし、戦略とも思えないが、クインシーとマイケルとエピックは9曲中テンパートンの3曲を最後までシングルカットせず残したのである。
「ベイビー・ビー・マイン」「ザ・レディ・イン・マイ・ライフ」も、カットされていれば、そこそこヒットしたはずだ。そんな物語もあって、私はこの2曲をいとおしく感じてしまうのである。
★番組情報:レコードアワー
放送時間:毎週月曜 8:00~9:00
再放送情報は三角山放送局HPのタイムテーブルをご確認ください
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