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夢幻回航 22回 酎ハイ呑兵衛



世機は相手の力量をはかるのに、速攻をよく使う。

素早く攻撃して、素早く離脱する。
その動作を何度か繰り返して、相手の反応と、動作の機敏さ、速さを見るのだが、今回は手短にした。

2度ほど蹴りと拳を繰り出して、スグにやめた。
どうしたのだろうと沙都子が目を見張ったが、相手の反撃が素早すぎて、世機は次の手が出せなかったのだ。
その事に気がついて、自分も加勢に出ようと体を傾けた瞬間、世機がそれを制するように手を動かして、相手を見ながらではあるが、ニヤリと笑った。
沙都子は理解したらしく、フッとため息を漏らして、小声で「なんだよ、こいつ!」と言いながら、眼差しは真剣なまま、口元だけは歪めた。

相手の男は次々と素早く拳を繰り出した。
世機は紙一重でかわしているふりをしてみせた。
男はその事に気がついて、攻撃のパターンを3度ほど変えたが、対峙する世機も、見事にそれを躱してみせた。

男はいい加減飽きてしまったらしく、「この野郎、これも躱せるか?」と言いながら、更にスピードとパワーを上げた一撃を放ち、世機が避けきったところにさらに2回、回し蹴りを放った。
どれも尋常ではなく、一撃必殺の威力とスピードだった。
最後の一発が、席の腕に当たった。当たったというか、紙一重で躱しきれずに、仕方なくガードしたのだ。

内心ヒヤリとした世機だが、強がりの一言を放つ。
「いまのは良い一撃だった!・・・45点だね!」
「フッ、減らず口が!」
世機の挑発に乗ったかのようだが、男は至って冷静な反応で、世機を見つめた。
闘志が漲っていた。
世機も気合を込める。
世機の気の色は無色透明、相手の色は闘神の赤!どちらが強い?
睨み合って10秒が経った。

世機のほうが先に動いた。

地面すれすれのローキックと思わせておいて、低空姿勢から一気に胸を蹴り上げた。
相手の男は少し体勢を崩した。
世機はすかさず次の攻撃を繰り出す。

最初の蹴りの勢いのまま上体を立て直して直立すると、突っ込んで右からフックを仕掛ける。
が、これは男の罠だった。
右手を引っ掴み、世機を一気に自分の方へ引き寄せて、腕を決めてきた。

男は世機の右腕を締め上げて、折りにかかる。
世機は相手の力を緩めるために、顔面に一撃を入れる。
相手は力を緩めてしまったので、世機は一気に腕を引き離して、体を離した。
鼻血が出たが、鼻が折れた形跡はなかった。
格闘バカの世機が唯一自慢できるのは、鼻をおられたことがない点だった。
沙都子はこの攻防を見て、顔面を紅潮させて目を輝かせた。
この女もどこかおかしな人種なのだ。
人はみな、なにかおかしな、他の人から見れば変な癖や好みを持っているものだが、呪術師というものはどこか違ったところが際立っている者たちの集まりなのだから仕方がない。
沙都子は世機の負けを脳裏に浮かべつつも、勝つことを願って、戦いに見入っていた。

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