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ショーケースの中の昇竜拳

 日本の対戦型格闘ゲームの看板ともいえるカプコン社の「ストリートファイター」。このゲームタイトルでプロ格闘ゲームプレイヤーとして活躍している日本のプレイヤーがいる。世界の強豪と争うために彼らが実践し、結果を出している「意外」な考え方がある。

 その考え方が活かされている領域はすでに存在し、目新しいものではなくなっている。ただ、普通に考えるとデメリットが多いと思われるそれをメリットとして結果を出しているのは注目すべきだと思う。ここではそれを紹介したい。

ストリートファイターとは?

ストリートファイター6

 「ストリートファイター」は対戦型格闘ゲームというジャンルのゲームである。プレイヤーが1対1でリアルタイムに格闘し、相手の体力値をパンチやキックでゼロにすれば勝利する。

 使用できるキャラクターは複数用意され、通常のパンチやキックの他にキャラクター毎に特別な攻撃、防御の方法を備えている。キャラクター自身の良し悪し、対戦相手のキャラクターに対する有利不利があり、攻撃、防御方法の攻略が必要になる。またそのキャラクターを使用するプレイヤーの癖、いわゆる「人読み」という戦術もある。

日本人プレイヤーの強さ

 ゲームで競ういわゆる「eスポーツ」の大会は、様々な規模のものが世界各地で開催されている。有名な対戦型格闘ゲームのeスポーツ大会の一つにThe Evolution Championship Series(通称:EVO)がある。ここでは、様々なタイトルの対戦型格闘ゲームの大会が開催されている。(2023年に米国ラスベガスで開催され、参加したユニークプレイヤーは約9000人!)

 この大会のゲームタイトルのひとつに「ストリートファイター」がある。
注目すべきは、日本人選手の実績で、2002年から2023年までの19回の開催で、日本人選手が13回優勝している

 一つのゲームタイトルでこれだけの期間、特定の国がこれだけの結果を出すのは理由がある。もちろんこのゲームの製造元が日本であることも一因であるとは思うが、それだけではない。

ウメハラ

 一般的に、いわゆるFPS(First-person shooter)を中心とした「eスポーツ」の選手の平均年齢は18〜25歳(推定)、活躍できる期間も短い。

 対戦型格闘ゲームは、有利不利の状況が高速に切り替わる「ジャンケン」をしているようなものである。もちろん反射神経は要求されるが、「経験」でカバーできる場面も多い。そのため、選手の活動期間も長い傾向がある。

 日本の格闘ゲームプレイヤーで知らない人はいないであろう、レジェンドプレイヤー梅原大吾(通称:ウメハラ)選手は、1981年生まれ。日本を代表するのはもちろん、現役かつ強豪プレイヤーとして第一線で活躍している。世界では、"DAIGO"や"Beast"と呼ばれている。

ショーケースの中の昇竜拳

 日本人選手が強い理由。それをそのウメハラがこの動画でわかりやすく説明している。

 日本国内において、対戦相手になるプレイヤーに対して、戦略、戦術を隠さず、むしろオープンにし共有している。一般的には、対戦相手になる可能性のあるプレイヤーに対して、自分の戦略、戦術を隠すことによって、有利な状態を作り、勝利を得ようとする。

 一見すると、オープンや共有は損のように感じられる。確かに、目指しているゴールが「自分自身の勝利」であれば、確かにデメリットが多いかもしれない。

 だが、「日本人プレイヤーのレベルを上げる」というゴールであれば、どうだろう。戦略、戦術を隠さないことによって、より高いレベルのプレイヤーが増え、自分自身のレベルアップにも繋がり、長い目で捉えると日本人プレイヤー全体の強さに繋がっている。

サマーソルト・キックは隠す

 では、海外のプレイヤー勢はどのように捉えているのか。
 米国の強豪プレイヤーの一人であるPunkが、日本人プレイヤーがアメリカ人プレイヤーよりも強いこと、日本勢が世界一であることについてこの動画で説明をしている(自国プレイヤーに対してかなり辛口なコメント!)

Lit氏がこの動画の翻訳をポストしている。(感謝!)

ここでPunkは以下の主張をしている。

  • 日本勢が強いのは、「上達」することを目的として、攻略、戦術、キャラ対策などの「知識の共有」を出し惜しみしないため。

  • 一方で、米国が良くないのは、対戦の際に自分のメインキャラクターを使用せず、サブキャラクターを使ったり、そもそも対戦を避けるような「攻略隠し」をしていること。さらに、目先の勝負の結果に固執し、練習の仕方すらわかっていないため。

攻略を共有すること

 情報や知識の共有、オープン化の有名な事例としては、LinuxなどのOSS(オープンソースソフトウエア)やWikiという共同編集の仕組みを使ったWikipediaなどがある。

 これらのような大規模な事例でなくても、誰にでも身近に「複数の人数で同じ方向に成長をするという体制」には接していると思う。

 一見するとデメリットが多いようにみえる「共有」も、別の角度で眺めてみると、違うメリットが見えてくる。全ての領域で有効な考え方ではないけれど、有効に機能するケースも数多くあると思う。

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