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セミナー参加報告:座りすぎが危ない!

 「座りすぎ」が危ない、という話は聞いたことがあると思いますが、日本におけるこの研究の第一人者、岡浩一朗先生のセミナーに参加しました。今回はそのレポートです。
 
■第123回 文天ゼミHybrid「座位行動研究の最新動向」
■日時:2023年3月28日(火) 19:00~20:15
■会場:ハイブリッド開催:同友会ビル2会議室×オンライン
■講師:岡 浩一朗(早稲田大学スポーツ科学学術院 教授)

●座りすぎのリスクについて

 スライド資料から要点をご紹介します。
・1日8時間以上座っている人。男性38%、女性33%
・週40時間以上テレビを見ている人(座っている人)
  肥満リスク 1.94倍、糖尿病リスク 1.70倍
・1日テレビを4時間以上見る人  死亡リスク 1.46倍
・1日の総座位時間11時間以上  死亡リスク1.40倍
・座りすぎによる健康リスク
  心血管疾患 1.24倍
  脳卒中 1.16倍
  メタボリックシンドローム 1.17倍
  糖尿病 1.10倍
  過体重・肥満 1.38倍
  認知症 1.30倍
  不安症 1.48倍
  うつ病 1.42倍
・罹患リスクが上がるがん
  結腸がん、直腸がん、乳がん、子宮内膜がん、卵巣がん、前立腺がんなど
 
 つまり「座りすぎ」はがんや心血管疾患、脳卒中、糖尿病のみならず、認知症や不安障害、うつ病のリスクも高め、死亡率も高めるというわけです。1時間座り続けると余命が22分縮まるという報告もあります。 

●私自身が座りすぎ

 私が医師になったのは1984年で、大学院に入ったのでそこから研究生活もスタート。NECの98シリーズを購入しワープロは一太郎。それ以来ずっとPCを使う生活が続きました。実は私、サッカー少年だった中学生時代に腰椎分離症をやってしまい腰痛とは長い付き合いです。座りすぎがよくないことはわかっているのですが、座らなければ仕事にならない、と思って無理をしてきました。立ったまま原稿を書くなど考えたこともありませんでした。
 2015年にNHKのクローズアップ現代で「座りすぎ」が特集され、この問題が注目されるようになりました。2017年に東京ビッグサイトで開かれた第90回産業衛生学会で岡先生の講演を聴くことができ、間もなく岡先生の著書、「『座りすぎ』が寿命を縮める」が出版されたので早速購入し、自宅のデスクにPCを載せる台を作ったりしたのですが、狭い部屋では置き場所に困り。そしてコロナ禍の在宅勤務でオンライン面接が増え、座りすぎが加速されました。そんなところに今回のセミナー案内が届いたのです。幸い出張先から南北線一本で向かえるので現地参加を決めました。 

●現地参加してよかった!

 会場に到着したのが開始10分前。ですが、聴衆はわずか3名!一番前の席に案内されました。オンライン参加者が120名ほどいたようですが、講師の話をわずか3名で聴ける贅沢な時間でした。講演が終わり、オンライン参加者が質問や感想をチャットに入力している間に会場にマイクが回ってきました。そして何と、私がトップバッターになってしまいました。自分の経験から、継続するのがなかなか難しい、というような話をしたところ、岡先生が丁寧に答えてくださり、つい私もさらに質問し、ということで、さまざまなお話を伺うことができました。
 さらにセミナーが終わってから岡先生と司会の福田先生、同友会の三輪先生や、会場参加の産業医の先生、そして岡研究室の大学院生とも名刺交換できました。この時期だからこその会場参加のメリットと言えるでしょう。 

●立ったままで仕事はできるのか?

 立ったままでは仕事に集中できないのではないか、じっくりと考えられないのではないか、と心配になります。あるいは30分に1回立つようにすると集中が途切れるのではないか、という疑問もあると思います。しかしどうやらそうではないようです。岡先生の研究室のみなさんは立ったまま作業をしています。会場でご挨拶した大学院生さんも日頃から実践されていると聞き、考え方が変わってきました。実は座りっぱなしで作業を続けることで、かえって集中力を落としているのかもしれません。原稿のアイデアなど、トイレに立った時とか風呂に入っている時に思いつくことが少なくありません。座ってじっくりと悩んでいればアイデアが出てくるのではなく、立ち座りこそアイデアを生むのかもしれません。

●立ったままで会議はできるのか?

 会議も立ったまま行った方が効率的という話があります。病院のナースステーションでの朝夕の申し送りは立ったまま行うところが多いと思います。全員が座るスペースがない、という問題もありますが、必要なことを簡潔に伝えるには立ったままで十分でしょう。「トヨタの会議は30分」だそうですが、30分くらいまでの打合せや相談事は立ったままでいいんじゃないでしょうか。さすがにお客様を立たせたまま打合せというのは失礼になってしまうかもしれませんが、世の中の認識が変われば作法も変わるかもしれませんね。
 一方、ブレインストーミングは座って行った方がいいかもしれません。私の場合、相手の話を聞きながら、体の奥から言葉が浮かび上がってくるのを待っている感覚があり、座っている方がやりやすい気がします。それでも30分に1回は立った方がいいでしょうね。 

●カウンセリングはどうする?

 カウンセリングの場合はどうでしょうか。通常の産業医面談は30分で運用していますが、必要に応じて60分、長い時は90分取ります。クライアントが話したいことを話し切れたという感覚を持てるのは重要ですし、そもそも自分が何に悩んでいるかもよくわかっていないことが多く、沈思黙考する時間も必要ではないかと思います。立ったままでは「立ち話」的で、軽く扱われたと思ってしまうかもしれません。今のところカウンセリングを立って行うつもりはありませんが、合間には必ず立つようにしようと思います。 

●さまざまな取り組み

 講演後半ではさまざまな取り組みが紹介されていました。今年1月に発売された雑誌Tarzanが座りすぎの特集を組んでいて、とても参考になります。東京法規出版は職場等で配布できる座りすぎ対策のための教材を作成しています。また厚生労働省がコロナに対応して出した「新・健康生活」のススメにも座りすぎの注意が掲載されています。
 アプローチとしては座りすぎのリスクの教育やスマートウォッチで座りすぎアラームを鳴らすなどの教育的・行動的介入と、昇降デスク、オフィスレイアウトの工夫による環境的介入、そして組織での取り組みも合わせた包括的介入がありますが、個人による教育的・行動的介入ではやはり効果が乏しく、環境的・包括的介入を行わないと十分な成果が出ないようでした。健康経営の視点で考えた場合、この問題は個人の自覚だけでなく、組織の意識改革が重要になってくるように思います。 

●とりあえず何をするか

 ということで、改めて立つことの重要性を認識し、とりあえず以下のことを試してみようと考えています。
 
・座っている時は30分に1回は立って少し動く
・そのために30分に1回チャイムを鳴らす(トマト型のキッチンタイマーを買いました)
・立って作業できる場所を作る
・オンラインの面接は30分ごとに立ち座りする
・スマホを使う時は立つ
・講義の時も30分に1回立つことを促す。寝てる人には迷惑でしょうが。
・職場へのアクション
 
 果たしてどうなるか、いつかまたご報告したいと思います。岡先生はじめ今回の企画を立てられた文天ゼミの関係者のみなさまに感謝申し上げます。

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