学会参加報告:産業衛生学会2024広島その1
ご報告が遅くなりましたが、5月に広島で行われた第97回日本産業衛生学会に参加しました。今回は最終日に行われた、障害者の合理的配慮の自由集会(ミニシンポジウム)に登壇するのがメインの役割でしたが、いろいろな学びがありました。
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第97回日本産業衛生学会
日時:2024年5月22-25日
会場:広島国際会議場・中国新聞ビル
テーマ:変革期における産業保健のアイデンティティ
-サイエンスに基づく組織と労働者の両立支援-
https://convention.jtbcom.co.jp/sanei97/index.html
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▼ランチョンセミナー1 ノンアルコール飲料を活用した減酒支援(吉本 尚)
今回聴きたかったプログラムの一つがこちらでした。産業精神保健学会のアルコール特集にもご執筆いただいた吉本先生が、減酒支援におけるノンアルコール飲料の活用を講演するというのですから聴かないわけにはいきません。吉本先生は筑波大学の後輩。私は学閥みたいなのはこだわらないのですが、やはり後輩の活躍は嬉しいものです。座長はこちらもよく知った朝日新聞の産業医、伊東明雅先生。産業医仲間として大変お世話になっている方です。
ノンアルコール飲料が減酒支援の一選択肢になりうることは、減酒支援に携わる人たちの間では言われていましたが、今回、吉本先生たちはアサヒビールとの共同研究で世界で初めて実証的に証明してくださいました。ノンアルコール飲料を使った群と使わなかった群に8週間の介入研究を行い、ノンアルコール飲料を使った群の飲酒量が減少することを明らかにしたのです。
減酒指導の選択肢は大きく分けると1回の飲酒量を減らすか、飲酒の日数を減らすかの2つに分かれるのですが、これからはノンアルコール飲料の活用も自信を持って勧めることができます。
アルコール依存症の当事者、家族、そして専門家の中には、酒造メーカーは“有害物を作っている会社”という感覚を持つ人が少なくないのですが(私も基本的にはそう思っています。私も飲酒者ですが)、日本のアルコール消費量は平成5年をピークに減り続けています。時代は変わってきており、アサヒビールはその変化に適応した動きを示しているように思えます。
研究の詳細はプレスリリースをご覧ください。
▼もう一つの研究発表
実は本講演の前日に吉本先生たちはもう一つ重要なプレスリリースを行っていました。「個々人のアルコール代謝遺伝子情報に基づいた減酒指導で過剰飲酒をしている若年成人の飲酒量が減少」というものです。
飲酒すると顔が赤くなる人がいます。私もそうです。この現象は実は黄色人種にだけ見られ、約半数の人が飲酒で顔が赤くなるのです。これはアルデヒド脱水素酵素 (ALDH2)の活性が遺伝的に異なるために起こります。また飲酒するとすぐ酔う人とまったく酔わない人がいますが、これはアルコール脱水素酵素 (ADH1B)の活性の違いによって起こります。
研究は遺伝子検査の結果に基づき減酒指導を行った群と「大学生のためのアルコール・ハンドブック」だけを配布した群のアルコール摂取量およびAUDIT-Cのスコアを測定しました。その結果、遺伝子検査に基づき減酒指導を行った群ではアルコール摂取量が減少しAUDIT-Cのスコアも低値を示したのです。
アルコールの遺伝子検査は私が院長を務めた慈友クリニックで2013年から実施し、治療に役立てていましたが、このような実証研究がなされたのは涙が出るほど嬉しいことでした。個人的には毎年全国の高校3年生がこの検査を受けることで自分の体質を知り、成人してから適切な飲酒を心がけてくれ、酒害を減らせるのではないかと考えているのです。
経済産業省が推進する健康経営優良法人の調査票には職場のアルコール問題対策も含まれています。健康経営を見据えた企業活動のためにも、上手なアルコールとの付き合い方、バランスの取り方が重要になってくると思われ、吉本先生たちの活躍に大いに期待したいと思います。
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