人間関係の新しいつくり方を考える――ポストモダンのつながりの技術
「人との関係がうまくいかない・・・。」
というのは、とてもよくあるご相談のひとつです。同じテーマのお悩みであっても、おひとりおひとりによってニーズやお悩みの背景や深みは変わってきます。
ただ、大きく共通するものがあるのも事実かもしれません。それは、心そのものというよりも、社会的なものや教育的なものでもあります。
心を考えるときに、いまいる環境がどういうものであるのかとか、どのような教育を受けどのような知識をもって世界や人に対峙しているのかを、自分自身で相対化できることは、生きるうえで大切な技法のひとつであるように思います。
菅野仁さんという社会学者が書かれた『友だち幻想――人と人との〈つながり〉を考える』には、このヒントが書かれています。菅野さんによれば、現代の人と人とのつながりにおいて大切なことは、気の合わない人間、あまり自分が好ましいと思わない人間とも、「並存」「共在」できること、だと言います。
学校教育では「みんな仲良く」ということを強調されてきました。けれども、統計上は子どもの不登校・自殺率ともに年々増加し続けています。なぜなのか、をもっともっと真剣に考える必要がありそうです。
菅野さんが述べているとおり、「みんな仲良く」が機能した時代もありました。同質性が人びとのアイデンティティと重なり合っていて、ひとつのムラの中で生きた方が生存率が高かった時代です。
いつ頃かを特定するのはなかなか難しいですが、夏目漱石のように、明治期にすでにこれまでと違う自我のありようが日本人にも表れてきたことを加味すると、少なくとも明治あたりからは現代に連なる人との関係のつくり方の変化が始まっていたといえるでしょう。
いまも教育現場では相変わらず「みんな仲良く」という意識をもたれておられる方もいるようですが、もはや個がはっきりしてきて同質性でつながることができない現代の子どもたちには、自分が他の人と違うことはマズイことなんだと伝わってしまいかねないように感じます。
人間と人間とがつながるには、技術が必要なのです。この大事な点を教えてくれるところがあまりにも少ないように思います。
哲学者で精神分析家のE.フロムは『愛するということ』という本の中で、他者を愛するということは技術だと述べていますが、私たちが大人になっていくことや成熟していくことはどういうことかを教えてくれる本のひとつです。
子どもを愛するということも、技術なのです。
精神分析が役に立つなぁと私が思うのは、新しい人間関係のつくり方ができるようになる、という点もひとつです。
私がつくり方を教えるわけではないのですが、自分自身の心が整ってくると、何か、自然とそうなっていくようです。
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