【漫画】『ファミレス行こ。(和山やま作)』が最高すぎたので語りたい。(ネタバレ有)

腑抜けたようなタイトルとギャグ漫画チックな絵柄、完全になめてた。伏線回収(群像劇)+狂児と聡実のもどかしい関係性などとんでもなく練りに練りまくった物語だった。。まじすげぇ。。。


※『カラオケ行こ!』と『ファミレス行こ。』の盛大なネタバレを含みます。ご注意ください。※





初めて読んだ時、腕時計煮るシーンとバックハグのシーンで「おいおい唐突だな」とちょっとびっくりしたんですよ。いきなり他人家で腕時計煮るか??とかそんな街中で抱きつくなんて大胆な、、!と驚いたのですが、この結末を知りながらもう一回最初から読んだところ、至る所に聡実くんの狂児への思いが描かれており、その思いの積み重ねを経て来るべきして来た結末であることに衝撃を受けたのです。
聡実くんめっちゃ狂児のこと思っているし、常に頭の片隅で考えてる。。。

最初から振り返ります。


◾️絵画にこびりついたコーヒーのシミ

これ!!もう本当に、最初は何気ないシーンで見落としていたのですが、ファミレスバイトをはじめるきっかけ、かつ聡実くんがお金を貯めたい動機の説明としてめちゃくちゃ重要なシーンなんですね。
直接的には絵画の汚れを落とすためにバイトとして潜入する、がきっかけですが、そもそもバイトを始めたい動機としては狂児へのプレゼント資金を用意するためであり、この抱きついてキスする天使の羽につけてしまったコーヒーの黒いシミは、「狂児の腕に彫られてしまった”聡実”タトゥー」の暗示なんですかね。。

さらに物語が進んでいく中で、タトゥーを消すための資金としてお金を貯めている、というような描写があります(これもミスリードかもしれませんが)。
狂児のタトゥーを消すこと=狂児との関係を清算することだと考えているなら、さっぱり「僕のタトゥーを消してください、そしてもう会わないでください」て言えばいいのに、なかなか言えない。500円玉貯金なんて時間と手間のかかることをわざわざ続けて(しかもかなりの金欠であり、バイトに時間を割いているよう)まで、自分で退路を切り捨てているような、一方で狂児の気持ちを試すような、もだもだした関係を続けている。
ちまちま深夜バイトで汚れを落とそうとしたり、500円玉貯金を続けて狂児のタトゥー除去資金を貯めたり、自分で引き起こした物は自分でカタをつける、みたいな聡実くんなりの「大人」のなり方なのかなぁと思ったり。

ごしごしお手拭きで拭って、はって顔する聡実くん。汚した後すぐが一番汚れが落ちる可能性が高いのに(時間が経つほどこういう汚れって落ちないよね)、それでも自分がつけてしまったシミを時間をかけて掃除することを選んだ、いや、この汚れが「落ちないこと」を願って見守り続けるためにバイトを始めた可能性も考えられる。。

このコーヒーのシミだけで何杯も飯が食えるわ!!漫画の中で明確な聡実くんの心の声、モノローグが描かれないから、表情ひとつひとつ、コマのさき方ひとつひとつにこっちで勝手に意味付けして、色々考えれるのたまらんな。。

さらにこの漫画のすごいところは、そのコーヒーのシミを一生懸命綺麗にしようとしている聡実くんの横からおっさんがでてきて変な猫のイラストを上書きしてしまう。ある意味このコーヒーのシミは、聡実青年の若さゆえの葛藤とか狂児へのもだもだした感情の象徴であり、それを全部見透かした上で悪い大人が「っは」って笑いながら一蹴するような、そんな感じ。


◾️シミとか汚れ

シミについてもうちょっと掘り下げます。
歯車が狂う時、人生が変わる時の象徴としてのシミ。本当にこの漫画、シミとか汚れとかが度々モチーフとして出てくる。しかも自分が意図的につけたもの、というより、何かしらの不運が重なって、他人の起因によってつけられたシミ。それによって自分の人生が変わっていく。

『カラオケ行こ!』の最終話で狂児の若い頃が描かれていますが、出生時は京ニだった名前が、親父の落としたタバコの汚れにより「狂児」に改名(?)され(出生届書き直せよ笑)、深夜のカラオケバイトでぶっかけられたアルコールで893の乱痴気騒ぎに巻き込まれる。それがきっかけになって普通の人から893に入門し、人生の歯車が狂い出した狂児。
狂児も若い頃は「普通に暮らし 真面目に勉強して 穏やかに反抗期を迎え 波風立てず人と付き合ってきた」とのことですが、ある意味これは聡実くんの生き方そのものであり、その狂児が深夜明けの鈍った頭で893入りを果たした経緯を踏まえ、『ファミレス行こ。』で夜勤明けの聡実くんに対して「気ぃつけて 頭狂わんように」の発言があるわけです。

その聡実くんのファミレスでの夜勤中でも、度々シミのモチーフが登場します。聡実くんの服についたシミ、北条先生の頭のシミ、ワインのシミ。そして上記の通り、絵画のシミ。きっかけとなるシミはそこら中にあって、何かが起きそうな、人生の歯車が狂いそうなきっかけはいくらでもあるのです。(聡実くんの人生にも変化が訪れることを下巻に期待)


◾️LINE

狂児と聡実の関係性を描く上でLINEがかなりうまく使われているなと。単純に大阪と東京で距離が離れているからどうしても直接会うよりもSNSでのやりとりが中心になるのもわかるし、返信が返ってこない時や今相手何してるかなって考えてる時とかついLINE見ちゃうよね。(遠距離恋愛かな??)
初めて深夜バイト入った日、森田さんにも「いつもスマホばっかり見てるね」と言われてしまうし、聡実くんもいつも真顔なんだけど、狂児とのやりとりひとつひとつで拗ねたり照れたり嬉しくなったりする内面もあったりするのかななんて思うと(こっちが)にやけてしまうな。
第四話の最後とか第八話の最初とか、大学の友達と狂児とのLINE見た時の反応の差めっちゃ好きですね。


◾️聡実くんのため息

「はァ〜〜……」と聡実くんが大きくため息をつくシーンがあります。
第三話で狂児とのモーニングから帰宅した時に1回目。目線の先には狂児へのプレゼントだと言って貯めている500円玉貯金箱。狂児本人にも頭出しし、いよいよプレゼントを渡してしまう(=狂児との関係を清算する)ことに後戻りができない。かの狂児といえば、いつも通り飄々と現れて、相変わらず親戚のおじさんが子供相手にするみたいなちゃらけた会話をし、プレゼントの話をしても「努力するわ」とはぐらかされる。聡実くんからすれば、それはもう心してプレゼントの話を切り出したのに、重大な話(今後の関係性に影響がありそう)と察しながらもわざとはぐらかす狂児の態度に、そりゃ聡実くんもため息もつきたくなるよ。
もうひとつのため息は、森田バンドのライブ打ち上げシーンですが、こちらは後述。


◾️中華屋ランチ

聡実くんは肘をついて食事をする癖があります。『カラオケ行こ!』でも中学生の聡実くんに対して、狂児が注意するシーンがあります。まぁ普通、大学生の男性に対して「肘つくなよ」はさすがに言わない気がしますが笑
中華ランチに限らず、聡実くんと接する時の狂児は終始聡実くんを子供扱いしているような、自分の素に近い本当の部分ははぐらかしているような、そんな印象を持ちます。
一見狂児の方が、東京まで来てご飯奢ったり、腕時計あげたりと聡実くんへの愛がストレートに描かれているのですが、聡実くんからしたら、軽薄な行動に失望し、子供としかみられていないことに対するもどかしさとなってより悶々とすることになるのですが、、、
狂児サイドから見れば、自分は893だからこそ聡実くんを危ない世界に近づかせたくないっていう気持ちもわかるし、聡実くんが大人になるまでの明確なリミットが近づいているのを感じつつ、子供扱いしてお別れのリミットを先延ばしにしたい気持ちもわかる。わかるのよぉ。。。
大人の余裕ぶってヘラヘラ近づいたり離れたりするの、悪い大人すぎて、もう本当狂児、お前ってやつは…、ってなる。


◾️作中に出てくる歌

前作『カラオケ行こ!』が歌を軸とした物語だったので、今作も歌は重要なモチーフだと思うんですがね。

まず森田バンドのライブ披露曲「♪俺に触らないで」の歌詞がブッ刺さる。
最初読んだ時は、聡実くんと同じく「なんちゅうタイトルやねん」と思ったけど、あらためて聡実と狂児の関係を思ってみると、色々しんどい。

何を企んでるのか知らないが その目を見ればだいたい分かる
光も射さない瞼の奥で 銃口がこちらを向いている
ラットのごとく俺を転がし 足元には死体の山
何がしたい 何が欲しい
毎日生きてて楽しいか 毎日メシ食えて幸せか
それ以上何を望むのか
俺に触らないで 俺に触らないで
朝飯前に触らないで 簡単に好きになるから

『ファミレス行こ。』p119

前半は893で25歳も年上の狂児に対する聡実の思いだし、後半は聡実自身の気持ちなのかな。。
最後、「朝飯前に触らないで 簡単に好きになるから」は、狂児とモーニングしたあの朝を指しているとしたら、朝早くからスマホの時計見て「まだかな」って思ってたら、足ツンツンして待ち合わせ場所に現れる狂児のこと本当はどう思っていたのかなとか考えてしまう。。


ライブ打ち上げスナックでの「かざぐるま」

叶わぬ恋と決めつけても あきらめきれないよ
どうにもならぬと はじめから知っていたのに

『ファミレス行こ。』p127

おじさんの歌声を聴きながら、狂児とのLINEを眺める聡実。相変わらず子供扱いしてくる狂児に対して、反応しあぐねている、距離を測りかねている様がわかる。
たまらず「はァ〜〜……」と息つきたくもなるよ。


◾️腕時計を煮る

このシーン、本当に上手いですよね。鍋の水がぐつぐつと煮えたぎっていくように、聡実の感情も溢れていく。自分はこんなにうじうじと狂児との関係について悶々としているのに、狂児は簡単に手放してしまえるのかという思い、893と大学生という違い、年齢の差、諸々、、怒りやもどかしさや切なさでごった返し、ついに腕時計を煮るという暴挙に出る。

「自分がうじうじと悩んでいるのはあいつのせいだ」
「あいつは200万円の腕時計を簡単に手放せるのか」
聡実くんはいっつも狂児のことを考え、ある時は狂児のせいにして、ある時は怒りをあらわにし、本当に常に頭にいるんだなと感じるのです。二人で会ってる時やLINEはあんなに塩対応なのに、、会えないからこそ相手のことを考え、またいつかは別れを切り出すことを念頭におきながらもむしろ離れがたい関係性になっていっているの、たまらなくなる。

中華ランチでの狂児との会話から始まり、「俺に触らないで」「かざぐるま」の歌、追い討ちをかけるような「お勉強頑張ってー」のLINE、そして200万円の腕時計。いろんなものが積み重なって、聡実くんの気持ちを追いつめて、来たるべくして来た「腕時計の煮込み」なんだなと思いました。


◾️甥っ子と叔父さん

『カラオケ行こ!』の時は、歌が上手くなりたい893が合唱部長に歌を教えてもらう、という大義名分のもと、893のおっさんと中学生という異様な組み合わせの二人ながらも歌を通して擬似的な師弟関係(友情?)がありました。
しかし大学生となった聡実も地元を離れ、もう二人が会う理由も明確な関係性もありません。第三者に「どういう関係か」と聞かれれば答えに困るが、しかし離れ難い。『ファミレス行こ。』の二人の関係を表すならそんな感じ。
とりあえず体裁よく「甥っ子」と「叔父」と説明するが、どうもしっくりこない。狂児は実の甥っ子に対しても「元気にやってたら別にいい」程度の気持ちで、赤の他人である聡実に対しても簡単に離れていってしまうような、そんな寂しさがある。ここでも腕時計の話とリンクしてくるのだが、狂児は、もともと人や物への執着とかそもそも自分以外への興味関心が薄いんだと思う。
この話聞いた後での「いい肉食って 元気でがんばって」はつらいよなぁ。。。


◾️バックハグ

焼肉屋から出てからも終始何か考え事をしているみたいな聡実くん。このあたりの二人の空気感とか無言の気まずさの描写うますぎん??
からの突然のバックハグ、。。。え?
ここの考察はもういろいろありすぎてやめます。大人しく下巻を待ちます。


この『ファミレス行こ。』が続く未来を知りつつ、2人の馴れ初め話である『カラオケ行こ!』が実写映画やるの、どんな気持ちで見たらええん、、????
ポップだけどちょっとほろ苦い青春のキャッチーなワイキャイ映画の続編で、こんなにじめっとした湿度高い関係性が続くの、ちょっと頭おかしくなるわ、、、
映画『カラオケ行こ!』面白かった人(特に狂児と聡実の2人の関係性が刺さった人)はまじで『ファミレス行こ。』読んでくれ!!!!
映画見ながら、おぉっと、、!!??と何かのアンテナがたったそこの女子!!!まじであなたの勘は正しいです。あなたの求めたものは『ファミレス行こ。』にあります。しかも大人になってさらにこじれております。最高です。
リンク貼っておきます。

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